ヒョウモンチョウ類5種類の小呂湿地における出現期について (その3) |
杉坂 美典......... |
1 はじめに 私は,岡崎市にある小呂湿地にて,3年計画で,9月中旬から10月中旬にかけて定点調査を行うことを決め,今年がその3年目になった。そこで,2017年の調査結果,および3年間の調査結果をまとめ,関係諸氏からの情報の提供やご指導・ご意見を賜りたいと思う。 |
2 調査場所 岡崎市小呂町小呂湿地一帯 |
3 調査時間帯 晴天(雲量8以下)時の午前10時前後 |
4 調査方法 湿地の周辺を飛翔していたり,花に飛来したりしている個体を同時間帯で確認し,写真撮影することによって個体の特徴を確認し,重複してカウントしないように注意する。 |
5 調査日 2017年の調査日は,次の通りである。 9月19日 9月24日 9月27日 9月30日 9月26日 10月4日 10月8日 10月11日 10月17日 10月20日 |
6 種ごとの調査結果と出現数の変化 |
(1) ミドリヒョウモン |
||
ミドリヒョウモン ♂ |
@ 記録日と個体数 ・ 9月19日 6♂♂1♀ ・ 9月24日 7♂♂1♀ ・ 9月27日 6♂♂ ・ 9月30日 記録なし ・10月 4日 5♂♂1♀ ・10月 8日 8♂♂2♀♀ ・10月11日 2♂♂ ・10月18日 記録なし ・10月20日 記録なし |
A 出現数の変化 |
(2) ツマグロヒョウモン |
||
ツマグロヒョウモン ♂ |
@ 記録日と個体数
・ 9月19日 1♀・ 9月24日 1♀ ・ 9月27日 1♀ |
A 出現数の変化 |
7 結果 次は,ミドリヒョウモンの出現数と岡崎市の最高気温,最低気温のデータである。 |
|
8 考察
・ (図5)は2015年,(図6)は2016年のミドリヒョウモンの出現数と岡崎市の最高気温,最低気温のデータをグラフ化したものである。 2017年の9月の中旬は,気候が安定しており,夏眠から覚めたミドリヒョウモンが,小呂湿地には数多く集まっていた。しかし,9月29日に突然,寒波が襲い,最低気温が10℃を切ってしまった。その影響で,29日と30日は,全く見つからなかった。死んでしまったのだろうかと心配したが,4日後の10月4日には,5♂♂1♀が姿を現した。写真を撮って確認したところ,寒波の前後で,同じ個体が確認でき,低温のために小呂湿地に飛来しなかったことが分かった。 ・ 例年は,10月2日前後が出現のピークになる。それは,そこ頃から最低気温が,15℃を下回るようになるためであるが,2017年は,10月11日になっても15℃以上あり,8日には8♂♂2♀♀,11日には2♂♂を確認することができた。ここまで多数の個体が生存できたのは,最低気温が下がらなかったことによるものだと思われる。 ・ 2015年と2016年の結果から,9月になって最低気温が18℃を下回るようになると夏眠から覚めはじめると考えられ,飛来する個体は,9月の終わりから10月上旬に最も多くなることが分かった。 ・ この3年間では,10月12日が最終の記録となっており,最低気温が15℃を下回るようになり,夜間の体温低下によって死滅する個体が多くなると思われる。 ・ 夏眠後の成虫の生存期間は,写真の個体識別によって,10日間程度であることが分かった。 ・ ツマグロヒョウモンは,最低気温が10℃を下回っても生存でき,岡崎市内では,11月での記録は多く,1999年12月2日に新鮮な個体が記録されており,小呂湿地でも同様に晩秋になっても出現していると思われる。 ・ オオウラギンスジヒョウモンは,2015年には,のべ6頭が見られたが,2016年は1頭で,2017年には全く見られなかった。今後は,どうなるか心配でならない。 ・ ウラギンヒョウモンは,2015年に1頭,35年ぶりに確認ができただけである。 |
9 おわりに
2017年の秋は,晴れの日が続いたり,雨の日が2週間も続いたり,急に寒波がやってきたりして,これまでの秋とは違う状況になった。しかし,ミドリヒョウモンやツマグロヒョウモンは,その環境の変化に適応し,これからも生き延びていける種であり,ウラギンスジヒョウモン,ウラギンヒョウモン,クモガタヒョウモンなどは,適応が難しい種なのであろう。僅か50年間で,ヒョウモンチョウ類の分布の様子は大きく変わった。今後は,さらに変化し,ミドリヒョウモンとツマグロヒョウモンしかいない状況になるような気がしてならない。 これで3年間の定点継続観察を終えるが,今後も小呂湿地の環境を見守っていきたいと思う。 |