ヒョウモンチョウ類5種類の小呂湿地における出現期について

杉坂 美典.........

1 はじめに
 ミドリヒョウモンなどの大型のヒョウモンチョウ類は,1970年から80年にかけては,岡崎市の東北部にある丘陵地で普通に見ることができた。しかし,2000年代に入ると,理由はよく分からないがその数は激減した。ところが,2010年以降,再びその数を増やしている。
 そこで,小呂湿地では,成虫の発生期の5月や6月では,ほとんど記録が出ないが,夏眠後の9月からはかなりの数の個体が確認できるので,なるべく定期的に,晴天の午前10時前後における出現数を調査することにした。
 ここに今年の調査結果を発表する。この調査は,来年度以降も継続して行う予定であり,関係諸氏からの情報の提供やご指導・ご意見を賜りたいと思う。 


2 調査場所     岡崎市小呂町小呂湿地一帯


3 調査時間帯    晴天時の午前10時前後


4 調査方法     湿地の周辺を飛翔していたり,花に飛来したりしている個体を同時間帯で確認し,写真撮影することによって個体の特徴を確認し,重複してカウントしないように注意する。


5 調査日  2015年 9月9日, 9月12日, 9月18日 ,9月20日,9月23日 ,9月26日, 9月28日, 10月2日,10月3日 ,10月6日, 10月8日 ,10月10日,10月12日 ,10月15日 ,10月17日 ,10月19日


6 種ごとの調査結果と出現数の変化
(1) オオウラギンスジヒョウモン

オオウラギンスジヒョウモン ♀
@ 記録日と個体数

・ 9月28日 1♀
・10月 2日 1♂1♀
・10月 6日 1♀
・10月 8日 1♀
・10月12日 1♀
A 出現数の変化

(2) ミドリヒョウモン

ミドリヒョウモン ♂
@ 記録日と個体数
・ 9月18日 1♂
・ 9月20日 2♂♂1♀
・ 9月23日 2♂♂2♀♀
・ 9月26日 3♂♂3♀♀
・ 9月28日 6♂♂2♀♀
・10月 2日 3♂♂6♀♀
・10月 3日 2♂♂4♀♀
・10月 6日 2♂♂2♀♀
・10月 8日 1♂1♀
A 出現数の変化

(3) メスグロヒョウモン

メスグロヒョウモン ♂
@ 記録日と個体数
・10月 2日 1♂1♀
・10月 3日 1♂
・10月12日 1♂
A 出現数の変化
B その他
 10月2日には,メスグロヒョウモンの♀が産卵行動をしており,
食草のスミレ類だけではなく,木道,枯れ枝,私のズボンなど,手
当たり次第に産卵する様子が見られた。

(4) ウラギンヒョウモン

ウラギンヒョウモン ♀
@ 記録日と個体数
・10月 2日 1♀
A 出現数の変化

B その他
 岡崎市で本種の記録が出たのは,1980年以来である。

(5) ツマグロヒョウモン

ツマグロヒョウモン ♂
@ 記録日と個体数
・ 9月28日 1♀
・10月 2日 1♀
・10月 6日 1♀
A 出現数の変化
B その他
 市街地には,ツマグロヒョウモンは多いが,小呂湿地周辺では,少ない種である。


7 結果
  次は,ミドリヒョウモンの出現数と岡崎市の最高気温,最低気温のデータである。


8 考察
・ 9月上旬になって最低気温が18度を下回ると夏眠から覚め,蜜を求めて小呂湿地に飛来し,今年は,飛来する個体が10月2日に最も多くなった。
・ 9月下旬から10月上旬には,盛んな追飛行動が見られ,そのことによって体力が低下し,10月2日を過ぎると,最低気温が13度を下回るようになり,夜間の体温低下によって死滅する個体が多くなるのではないだろうか。
・ 昼の時間が徐々に短くなることによって,体内ホルモンの影響で産卵行動が促され,10月2日頃には産卵が終了し,体力が低下することによって,徐々に死滅する個体が多くなるのではないだろうか。


9 おわりに
 小呂湿地には,アザミ類やフジバカマなどの吸蜜植物が多く,ヒョウモンチョウ類だけでなく,オオチャバネセセリ,オオヒカゲなど,貴重な蝶類が飛来する環境が残されている。しかし,ササ類などの植物が徐々に侵入してきていることも確かである。
 私たちは,この貴重な湿地を自然放置するのではなく,適度に手を加えることによって,湿地に依存する動植物にとって,最も良い環境を保全していかなくてはならないと思う。





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