『 第19回 台湾撮影旅行記 』

2018年6月24日〜7月13日

..・・・・・ 春の台湾の珍蝶との出会いを求めて ・・・・・..

       杉 坂 美 典..........
● プロローグ
 今回の遠征は、昨年、行けなかった台湾の秘境である碧緑、屯原を探索し、さらに梅峰、拉拉山、南雅を再探索することである。どのような珍蝶が姿を現してくれるだろうか。

● 6月24日  桃園→埔里 快晴
 予定通り、桃園国際空港に着くことができた。新幹線の桃園站には、MRTが通ったので、移動が楽になった。
 そして、桃園站から台中站まで新幹線を使い、そこからは高速バスで、埔里站に着くことができた。
 埔里站では、明日、7時00分にホテルから碧緑までタクシーで移動するので、その交渉をした。運転手は、運賃の一覧表を見せてくれ、タロコ峡までが5500元など、100ヶ所位の運賃が書いてあり、碧緑までは片道4500元が相場であることが分かった。そして、28日の12:00に迎えに来てもらうことの交渉もできた。タクシーの運転手に時間が書いてある地図を渡し、ホテルまで送ってもらった。
 明日は、いよいよ碧緑である。天気は良さそうで、夕方まで撮影ができるので、珍蝶を探したい。

● 6月25日  埔里→碧緑 快晴
 タクシーは、予定通りの7時に迎えに来てくれた。そして、合歓山、碧緑神木経由で、慈恩の宿に向かった。
 合歓山には、1時間半で着くことができた。バスよりは1時間も早い。30分間の休憩ということで、早速、いつもの登山口まで行った。しかし、アリサンルリシジミ1頭、アリサンキマダラヒカゲ1頭がいただけで、さらに撮影もできず、悔しい時間を過ごした。
 そこで、碧緑神木に向かって出発した。10分くらい走ったであろうか。突然、渋滞に出くわした。道路工事のため、30分間、停車するとのことであった。ラッキーである。タクシーを降りると、何と、横の土手の上には、蝶が乱舞しているではないか! 土手を上がると、アリサンルリシジミが多数いる。綺麗な写真を間近で撮影することができた。そこで、土手を先に進んでいくと、国道に降りることができた。そこには、小さな空間が広がっていて、ウラキマダラミスジ、アリサンキマダラヒカゲを撮影することができた。そこで、まだ20分あるので、国道を戻ってみたらどうかと考えた。20mも歩くと、水が染み出ている崖があり、たくさんのアリサンルリシジミが吸水に来ていた。目の前で止まっているので、綺麗な写真をたくさん撮ることができた。すると、その中に小さなセセリチョウがいるのを見つけた。ファインダーをのぞくと、何と、今回の遠征の目標種であるバンダイホシチャバネセセリではないか! 久しぶりに手が震えた! しかも2頭いる! たくさんの写真を撮影することができた。まだまだ撮りたかったが、通行止めが解除になるという連絡が入り、後ろ髪を引かれる思いで、崖を後にした。
 そして、タクシーは、しばらく進み、神木に着いた。そこで、1時間の休憩をもらい、奥に進んだ。
 一番奥に着くと、撮影者がいた。バナナ液トラップをかけていて、ウラキマダラミスジが飛来していた。近くの花には、タカサゴミヤマシロチョウもいたが、タッチの差で飛び去ってしまった。このポイントの周りには、たくさんのゼフィルスがいて、ウラクロシジミ、ニイタカアカシジミ、エサキミドリシジミ、カノミドリシジミ、タカサゴミドリシジミを撮影することができた。アサクラアゲハもいた。あっという間の1時間であった。急いでタクシーが待っている駐車場にもどった。

碧緑神木の珍蝶が集まる場所
 その後は、宿の慈恩果園に着くことができた。宿は、1泊3食付きで700元であった。部屋はきれいではないが、いやな匂いはなく、シーツもきれいで、布団はなく、厚い毛布があった。それなりに生活できそうである。トイレは、3つあり、シャワールームも2つある。早速、昼食をすませ、支度をして、再び、神木に歩いて向かうことにした。
 途中、ヒオドシチョウ、ウラキマダラミスジ、タカムクシロチョウがいた。驚いたことに、真っ黒なシロチヨウがいた。新種かと思ったが、やはりタカムクシロチヨウの異常型であった。たくさんの写真を撮ることができた。
 宿から2時間かけて歩き、神木に着くと、晩飯の時間に戻るには、30分しかないことが分かった。そこで急いでポイントに向かった。
 ポイントに着くと、何と、カノミドリシジミが目の前の草の上で止まっているではないか。さらに歩き出したので、たくさんの写真を撮ることができた。最高である。すると、小さなシジミチョウが現れた。急いで撮ると、ルーミスシジミである。ところが翅を開いた次の瞬間、飛び去ってしまい、数カットしか撮れなかった。アリサンオナガシジミも現れた。そして、日も暮れかけ、ニイタカアカシジミが乱舞を始めた。壮観である。しかし、ここから宿までは5kmあり、夕食の時間まで1時間半しかないので、悔しい思いで、神木を後にした。
 しばらく進んで時計を見ると、このペースだと、晩飯に遅れることが分かった。さらに急いで山道を下っていると、パトカーが通った。そこでダメもとで手を振ってみると、何と、止まったではないか! 宿まで送ってくれないかと頼むと、OKという!ありがたいことである。 台湾、最高! 明日は、天気がよさそうなので、5時半には、宿を出て、神木に向かい、晩飯を午後6時にしてもらったので、たっぷりと撮影ができそうである。

● 6月26日  碧緑 快晴
 午前4時半に起床し、5時少し前には食堂へ行った。朝食は昨夜の内に準備してあり、ゆで卵とふりかけである。お昼の弁当も頼んでおいたので、準備してあった。そして、5時30分には、神木に向かって出発した。だいたい2時間かかるので、7時半には予定である。
 早朝の慈恩は、日陰になっていて、気温が低い。何も飛んでいない。ひたすら歩いた。そして、20分くらい歩いていた頃、大型の車が止まり、2人の夫婦が降りてきた。カメラを持っているではないか! そこで、思い切って訪ねてみた。
 「何を撮影されているのですか。」「蝶です。」「私も同じです。」「どこへ行かれるのですか。」「神木です。」「私も同じです。」「もしよかったら、乗せていってくれませんか。」「いいですよ。」「ありがとうございます。」
 3人で神木へ向かった。すると、前方に6人のカメラを持った人が歩いていて、車は、そのそばで止まったのである。そして、このポイントで、撮影をしていくということが分かった。さらに、この8人は同じ仲間であった。しばらく、アリサンルリシジミを撮影してから、自己紹介をすると、私のホームページを見たいということになり、いろいろと質問攻めになってしまった。楽しいひと時を過ごし、神木へ向かった。
 神木では、着くなり、タカサゴミヤマシロチョウが現れた。ついに撮影することができた。さらに、早朝は、各所でゼフィルスが乱舞しており、キャベツ畑に次々と降りてきて、吸水をしているではないか。まるで、ファッションショーの撮影会である。ウラクロシジミ、カノミドリシジミ、エサキミドリシジミ、タイワンウラミスジシジミ、ニイタカアカシジミなどが次々と現れた。
 撮影者も多く、20人くらいはいる状況である。人だかりがしている場所へ行けば、何かが止まっているのである。
 シジミタテハの中南部亜種、タイワンイチモンジシジミも撮影することができた。
しかし、10時を過ぎると、多くの蝶が活動しなくなり、カノミドリシジミ、ウラクロシジミ、ニイタカアカシジミがいるだけになった。
そんな状態が2時間近く続き、ようやく、タカサゴミドリシジミが現れ、狙っていたミヤマヒカゲも現れた。今日も、3000枚を超す撮影ができた。しかし、この後は、宿まで5kmを歩かなくてはならない。体力はかなり消耗しているので、気を付けようと思った。
 12時を過ぎると、朝、神木まで送ってくれた人たちは、帰っていかれた。お礼を言って別れた。
 午後2時になると、撮影者は、7人になった。すると、その内の2人の夫婦が、話しかけてきた。そこで、今日は宿に泊まることなどを話すと、その夫婦も同じ宿に泊まるという。そこで、一緒に宿まで連れて行ってくれないかと頼んだ。OKである。今日は、本当に幸運である。自己紹介をして、いろいろ聞かれ、楽しい話をすることができた。
 午後2時半を過ぎるとたくさんのゼフィルスが再び現れ、タイワンサザナミシジミを撮影することができた。
 午後4時 には、神木を出発し、無事、宿に着くことができた。明日は、午後からは、雷雨の予報なので、午前中が勝負である。

● 6月27日  碧緑 快晴
 昨日と同じく、午前4時半に起床し、5時少し前には食堂へ行った。朝食は、李さん夫婦を含めて3人分であった。神木で、あれだけの人がいて、同じ宿の李さんと巡り合えるなんて、不思議なことである。
 予定通り、5時20分には、神木に向かって出発した。
 神木には、5時半には着くことができた。さすがに早くて、何もいないかなと思っていたが、エサキミドリシジミが乱舞をしていた。
 その後は、ウラクロシジミ、ニイタカアカシジミ、タカサゴミドリシジミ、アリサンカラスシジミが現れた。9時までは、連写連写の時間が経過した。あっという間の3時間半であった。
 9時を過ぎたころである。小さな花に、小型のセセリチョウが止まっているのを見つけた。急いでシャッターを押すと、何と、バンダイホシチャバネセセリの♂ではないか! 急いで他の撮影者を呼んだ。みんなが集まり、列をなしての撮影会になった。綺麗な写真をたくさん撮ることができた。その後は、タカサゴミヤマシロチョウ、ミドリヒョウモン、ダイミョウキゴマダラを撮影することができた。
 昼過ぎのことである。「杉坂さん」 突然、後ろから声を掛けられた。振り向くと、何と、林本初さんがいるではないか! 私の日程に合わせて、神木まで来てくれたのである。本当に嬉しかった。久しぶりに林さんといろいろな話をすることができた。しかも、帰りは宿まで車で送って行ってくれるという。ありがたいことである。
 さらに、夕方になってやってきた台湾の人が、「杉坂さんですね。いつもホームページを見ています。」と話しかけてくれた。本当に驚いた。台湾のYahooで検索すると私のHPが上位で検索できることは知っていたが、顔を覚えていてくれるとは驚きである。日本の蝶について聞かれたので、いろいろと話をすることができた。
 午後3時を過ぎると、さらに蝶の種類が変わってきた。珍蝶のカノクロヒカゲが現れ、タカサゴシジミ、タイワンサザナミシジミが夕日を浴びていた。
 結局、今日も終日、撮影ができ、この3日間の撮影枚数は、何と12000枚にもなった。本当に、碧緑は秘境で、蝶の天国であった。
 明日は、午前中は、宿の周辺を探索し、午後はタクシーが迎えに来るので、タケウチセセリのポイントへ行ってみようと思う。

● 6月28日  碧緑→埔里  快晴
 今日は、12時にタクシーが来ることになっているので、宿の周辺を探索することにした。
 7時半に宿を出て、神木方面に歩いて行った。25日には、一度歩いているので、気楽であった。
 20分ほど歩いた場所は、朝日が射し、たくさんの種類の樹木が生え、環境が良い場所であった。アリサンルリシジミがたくさんいて、シータテハ、ウラキマダラミスジなどもいた。
 すると、小さな崖の上には、5mほどの幅で、小さな花をつけた木が密生していた。何か、いないかなと探していると、小さなセセリチョウが現れた。次の瞬間、「バンダイホシチャバネセセリ!」思わず叫んだ! 夢中でシャッターを押した。すると、さらに1頭のバンダイホシチャバネセセリが花に止まっているではないか! 落ち着いて観察すると、何と数頭が群れを成して飛び回っている。そして、花に止まっては、吸蜜をし、すぐに飛んでは、また吸蜜する行動を繰り返していた。次から次へと群れが現れ、常時、十頭近くが吸蜜している。夢中で撮影した。そして、吸蜜に現れた個体は、極力、写真に収めた。
 それから2時間、休みなしで撮影を続けた。そして、10時を過ぎるころから、個体数が減り始めたが、時々、群れを成して集まってくることが分かった。
 宿に帰らなくてはならない時間を計算すると、11時20分までは撮影できることが分かった。それまでは、カメラを持つ手が痛くなったが、撮影を続けた。そして、ついに帰らなくてはならない時間になった。仕方なく、後ろ髪を引かれる思いで、ポイントを後にした。

バンダイホシチャバネセセリが多数,吸蜜に現れた場所
 バンダイホシチャバネセセリは、♀は前翅表面に黄白点が現れるものの、♂は斑紋の現れ方には個体変異が大きく、裏面の黄白点にも個体変異があることが分かった。そこで、写真を使って個体を識別し、個体変異の程度を調べてみると面白いことが分かった。今回、20頭近くの個体が現れ、2500枚以上の写真を撮影することができた。これまでに、ほとんど記録がないバンダイホシチャバネセセリをこれだけたくさん記録できるとは、本当に幸運であった。
 そして、急いで歩いていると、タクシーが早めにやってきて、私を見つけて乗せてくれたので、ほとんど歩かずに宿に戻ることができた。そして、宿の主人に6日に来ることを告げ、次の目的種のタケウチセセリのポイントへ向かった。
 しかし、タケウチセセリは見つからず、埔里へと帰った。
 明日は、同じタクシーを使って、6時に屯原へ向かい、珍チョウを探す予定である。

● 6月29日  埔里・屯原  晴れ
 5時45分に1階に下りると、タクシーは既に来ていた。そこで、早速、屯原に向かった。
 霧社を経由し、屯原までは、1時間20分であった。タクシー代は往復4000元と高いが、山道は細く危険で、登山口で待って入れくれるので、いつでも帰られる状況であるのはありがたい。午後3時ころに戻って来ることを告げ、7時10分には、出発した。
 道は歩きやすく、斜度もきつくない。これは、いい感じだなと進んでいくと、何と通行止めのテープが張られているではないか! 立札には、道が土砂崩れで崩壊していて危険と書かれていた。どうしようかと迷ったが、テープの下には、新しい足跡やバイクの輪達があり、一応、先に進んでみることにした。
 5分ほど進むと、土砂崩れで、道が土砂で覆われていた。バイクの輪達は、ここで止まっていた。しかし、土砂の上に簡単な道が作られており、気を付けて通れば、進める状況であった。
 さらに5分間進むと、2つ目の土砂崩れの場所に遭遇した。ここはかなり危険で、土砂がまだ柔らかく、上に乗ると崩れる状況であったが、無事、渡ることができた。

崩壊した林道
 さらに5分間進むと、3つ目の土砂崩れの場所に遭遇した。ルートはあるが、足場がほとんどなく、突き出た小さな岩に足をかけて渡る状況で、足を踏み外せば、100m下まで滑落する状況であった。どうしようかと考えたが、足 跡があるので、進むことにした。ゆっくりと足を進め、無事渡ることができた。
 4つ目の土砂崩れの場所は、岩がせり出していて、それを回り込む形でルートがあった。これも滑落する危険があったが、慎重に渡りきることができた。

崖崩れで完全に林道がなくなっている現場 
 5つ目と6つ目は、ルートがあり、無事に渡りきることができた。
 そして、登山道は、森林地帯に入った。ようやく、撮影ができる状況になった。ところが、晴れていた空が曇りはじめ、アッと言う間に、本曇りになってしまった。気温が低く、チョウは全く飛んでいない。ここまで来たので、登山道を先に進むことにした。
 1時間ほど進むと、大きな吊り橋があった。その橋の途中で下を見ると、花が咲いている木があった。何かいないかと探していると、タカムクシロチョウが吸蜜していた。上から見る形になるので、飛翔している写真を撮ることができた。
 さらに1時間ほど歩くと、オジロクロヒカゲとミヤマシロオビヒカゲが地上に止まっていた。しかし、気配を感じ、パット飛び立ってしまい、姿が見えなくなった。そこで、持っていたバタフライトラップ液を道にまき、しばらく待つことにした。すると5分も立たないうちに、戻ってきて、液をまいた場所に止まった。そっと近寄り、無事、撮影することができた。
 そして、さらに先に進むことにした。登山道は、峠に着いた。そこには、立派な観測所があったが、封鎖されていた。
 道は峠を降り始めた。森林には、いろいろな植物が生え、良い環境であった。しかし、曇っているので、アサギマダラ、タカムクシロチョウ、タイワンモンシロチョウがいるくらいであった。
 登山道は、歩きやすく、さらに奥へと続いていた。ところが、急に霧が立ち込めるようになった。
 もし、この霧がもっと濃くなると、帰り道が見えなくなるし、崖崩れの場所が渡れるだろうか。さらに、雨でも降ったら滑るだろうし、崖崩れの場所で、水が流れたら、渡れなくなる! 遠くで雷の音がした! これはまずい! 気が付くのが遅かった! 急いで登山道を引き返すことにした。
 登山道は下りであるので、歩くのは楽であった。しかし、気が気でないので、どうやって崩壊したルートを渡ればよいかを考えてながら進んだ。
 まず、カメラや腰バックはすべてリュックに詰め、バランスをよくすることにした。さらに、丈夫な木を探し、それに頼りにしないが、体を安定させる杖とすることにした。
 杖になりそうな木の枝を探しながら歩いていると、60p程の長さで、しなりがあり、まっすぐな丈夫な枝が見つかった。運が良いと思った。そして、ついに土砂崩れの場所に到着した。
 1つ目の土砂崩れの場所は、杖を使うと体のバランスが安定し、楽に渡れることを実感した。危険な2ヶ所の難所も、杖と片手を使い、無事、渡ることができた。そして、ついに6ヶ所を渡り切った。もう安心である。緊張から解放されて、どっと疲れが出た。タクシーが見えたとき、安堵感から体の力が抜けていくのを感じた。もう、こんなバカなことは絶対にしないと誓った。
 タクシーに乗ると、運転手が、「天候が悪くなってきたので、雨が降ると帰って来られなくから、心配していたよ。」と言われてしまった。「すみません。」としか言いようがなかった。
 日本へ帰ったら、屯原登山口からの登山道は、道が整備されるまでは行かないように、警告しなくてはならないと思った。ただし、崩壊があまりにも大きいし、登山には東側から入るルートがあるので、整備される可能性はほとんどないと思う。
 明日は、梅峰へミヤマウラナミジャノメを探しに行く予定である。

● 6月30日  埔里・梅峰・ナールー湾・本部渓  曇り 時々 晴れ
 7時10分発の翠峰行きのバスに乗るため、7時には埔里のバス停に着いた。そして、7時11分、何と、合歓山行きのバスがやってきた。昨年は、土日しか合歓山行きのバスがなく、しかも、埔里から1時間30分も先にある国民賓館のバス停から出ていたので、翠峰行きのバスに乗ってから、乗り換える必要があった。それが、毎日、埔里のバス停から出るようになったのである。合歓山へ行くには、とても楽になった。
 翠峰行きのバスは、7時15分にやってきた。そして、目的地の梅峰には、8時30分には着くことができた。
バスを降りると、ミヤマウラナミジャノメのポイントがある梅峰の林道に向かうため、国道を進んだ。すると、国道沿いの樹林に小型のチョウが飛んでいるのが見えた。急いで撮影すると、クヤニヤシジミであった。幸先がよいなと思いながら、林道に入った。
 林道には所々に明るい場所があり、何かいないかと探したが、オオベニモンアゲハがいるくらいで、他には何もいない。仕方なしに、どんどん道を下り、ミヤマウラナミジャノメのポイントがある分かれ道に差し掛かった。大きな倒 木をくぐり、道を下った。しかし、オオベニモンアゲハしかいない。そして、行き止まりになった。時計を見ると、翠峰からの帰りのバスが来るのは、40分後か、3時間50分後である。この状況で長く待つのは厳しいので、40分間で梅峰のバス停まで戻ることにした。
 バス停までは、ずっと上りの道であるが、バスが来る10分前には、バス停に着くことができた。そして、色々な種類のチョウがいるナールー湾へ行くことにした。
 ナールー湾のバス停を降り、10分ほど歩くと西の丘に登れる林道がある。このポイントは、梅峰に匹敵するくらいの好ポイントである。
 林道に入ると、ヤマナカウラナミジャノメ、タカムクウラナミジャノメ、エサキウラナミジャノメが姿を現した。そして、坂を上った先には、明るい草原が広がっており、センダン草が一面に生え、その上をシロウラナミシジミ、タイワンヤマキチョウ、タイワンルリシジミが飛んでいた。
 しばらく撮影したので、元の林道に戻った。そして、大きな木に囲まれた空き地に着いた。上空には、ホッポアゲハが飛んでおり、ヤマナカウラナミジャノメが下草の上を飛んでいた。すると、前方の茂みの葉上にオジロクロヒカゲがいた。翅を開いて日光浴をしている。珍しい光景であった。
さらに、先に進むと、小型のウラナミジャノメが現れた。もしやと撮影してみると、何と、ミヤマウラナミジャノメではないか! 数カット、撮影することができた。しかし、なかなか止まらず、後を追ってついて行ったが、やがて樹林の上へ飛び去っていった。

ナールー湾のポイント
 仕方なく、その場で、しばらく待っていたが、天候が悪くなり、曇天になってしまった。すると、これまでいたチョウが全て姿を消した。やはり、高山に住むチョウたちは、天候に敏感である。
 昼食を兼ねて、その場で待つことにした。しばらくすると、上空が明るくなり、太陽が顔を出した。すると、チョウたちが姿を現し始めた。そして、ミヤマウラナミジャノメが樹上から降りてきた。チャンス! 数カット、撮影することができた。しかし、再び、樹上へ消えていった。その後は、30分ほど待ったが、現れなかった。
 仕方なしに、青青草原のバス停まで行き、ゴイシシジミが発生している本部渓へ行くことにした。
 本部渓に着くと、天候は晴れていた。林道沿いには、たくさんのチョウが舞い、壮観であった。
 橋を渡り、しばらく行くと、イネ科の植物の周辺を飛ぶゴイシシジミを見つけた。イネ科の植物の葉に着くアブラムシの体液を吸っていた。数カット、撮影することができた。さらに林道を進むと、やや日陰になっている場所で、ゴイシシジミを2頭、見つけることができた。さらに奥へ行こうとしたのであるが、天候が悪くなり始め、雷が鳴ったので、急いて下山することにした。
 本部渓のバス停に着くと、案の定、雨が降り出した。
 明日は、ナールー湾へ行ってミヤマウラナミジャノメを探し、その後、本部渓を探索しようと思う。
 
● 7月1日  埔里・ナールー湾・青青草原・本部渓  晴れ 後 晴れ 後 豪雨
 7時10分発の翠峰行きのバスに乗り、ナールー湾で降りた。
 早速、ミヤマウラナミジャノメのいたセンダングサの生えている場所へ行った。エサキウラナミジャノメはいるものの、ミヤマウラナミジャノメはいなかった。上を見上げると、ホッポアゲハが飛び、ミドリシジミの仲間が乱舞をしていた。ホッポアゲハは、朝日を浴びるために止まったので撮影できたが、ミドリシジミの仲間は撮影できなかった。
 そこで、すぐ近くのタカムクウラナミジャノメがいるポイントへ行くことにした。行ってみると、やはりいた。撮影しようとすると、大型のセセリチョウが現れた。クロセセリにしては大きいぞ、と思っていると、止まった。マエキセセリだ! 新記録種である。すぐに止まるのであるが、飛び立つのも早い。数カット、撮影することができたが、あっという間に飛び去ってしまった。そこで、また戻ってくるのではないかと、待っていると、やはり来た! 数カット、撮影できた。しかし、また飛び去ってしまった。では、もう一度戻ってくるのではと思い、しばらく待ったが、やって来なかった。そこで、ミヤマウラナミジャノメのポイントに戻ることにした。
 ミヤマウラナミジャノメのポイントでは、少々高い場所であるが、オジロクロヒカゲが占有行動をしていた。数カット、撮影することができた。
 この後、青青草原のポイントを見て、それからバスで本部渓へ移動するので、その時間を計算すると、もう一度、マエキセセリがいたポイントへ行く余裕があった。そこで、最後のチャンスと祈る気持ちでポイントに向かった。しかし、いなかった…。仕方がないので、戻ろうとすると、何と、マエキセセリが現れたのである! そっと近寄り、撮影することができた。しかし、今度は、草原の向こう側へ飛び去っていった。もうチャンスはないと感じ、ナールー湾から本部渓へ向かうことにした。
 バスは、30分遅れでやってきた。そして、本部渓に着くと、昨日と同様、たくさんのチョウが飛び交っていた。ところが、100m程進んだところで、急に曇りだし、あっという間に雨が強く振り出した。すぐに傘をさしてカメラを守り、バス停の前の雨宿りができる場所を目指して、急いで戻った。
 バス停前の避難場所に着き、空を見上げると、スコールという感じで、南の空は晴れている。その後、30分ほどは、豪雨が続いた。そして、だんだんと小雨になり、日が射すようになった。そこで、再度、林道を進むことにした。
 橋を渡り、しばらく行くと、本部渓に来た目的のゴイシシジミが現れた、しかも、5頭もいる。十数カット、撮影することができた。これで目的は達成したのであるが、先に進むことにした。
 林道では、たくさんのチョウが吸水に現れていて、ワタナベアゲハ、タイワンタイマイ、タイワンビロウドセセリ、キモンチャバネセセリなどを撮影することができた。ワモンチョウも現れ、飛んでいる様子を撮影することができた。
 そして、山道に入る場所まで来た。すると、あっという間に曇り始めた。これはやばいと思い、急いで引き返すことにした。すると、大粒の雨が降り出した。急いで傘をさし、カメラを守った。そして、恐ろしいほどの豪雨になった。カメラは、大丈夫であるが、ズボンから下は、ぐしょぬれである。ポンチョを着たくても、カメラが濡れることが心配なので、そのまま進むことにした。雨は、恐ろしい勢いで傘をたたいている。もう少し行くと、橋を渡った先に廃墟があるので、そこまで行けば、ポンチョを着ることができると思いながら進んだ。林道は、川のようになり、靴は中までぐしょぬれである。そして、ようやく廃墟に着いた。カメラを大型ビニル袋で包み、ポンチョを着て、バス停に向かう準備ができた。
 本部渓のバス停は、人家のひさしがあるので、雨をしのぐことができる。濡れた傘をビニル袋で包み、ポンチョを着たまま、バスを待った。
 バスは、20分遅れでやってきたが、無事、埔里に着くことができた。埔里では、雨は降っておらず、道路は乾いていた。台湾の天気予報が当たらないのは、仕方がないと思った。
 明日は、台中へ戻り、桃園経由で、上巴陵へ移動である。定宿のホテルは、いつも空いているので予約してなく、ネットで良いホテルを見つけたので、泊まれるか交渉してみるつもりである。

● 7月2日  埔里→上巴陵
 雨→晴れ 時々 曇り
 埔里は、朝から雨であった。今日は、移動日であるので、運がよかったかもしれない。埔里からはバスで台中に行き、そこからは新幹線で桃園まで行った。桃園から上巴陵までは、タクシーで2時間の行程である。タクシー代は、1810元と安かった。
 上巴陵には、12時に着くことができた。晴れていたので、昼食後、早速、近くの丘のポイントに行った。

上巴陵の宿の近くの林道
 雑木林の道は、昨年と同じ環境で、センダングサが生い茂り、たくさんのチョウが集まっていた。キマダラコチャバネセセリ、タイワンオオシロシタセセリ、ダイミョウセセリ、スギタニイチモンジを撮影することができた。次に、その下の道に行ってみた。昨年は、オオムラサキがたくさんいて、今年は、昨年より10日ほど早く来ているので、最盛期のはずだが、1頭、いただけであった。この道の近くに梅の木があり、昨年は、完熟した実がついていたのに、今年は、既に落ちでいた。日本と同じで、全てが早く発生しているのかもしれない。
 その後は、東の谷の林道へ行ってみることにした。
 昨年は、たくさんのオオムラサキやオスアカミスジがいたのに、全くいない。しかし、ワモンチョウは、昨年がほとんどの個体が痛んでいたのに、今年は、綺麗な個体ばかりである。どうも理解しがたい。ホウライコムラサキ、スズキミスジを撮影することができた。
 2時間ほど進むと、森林が深くなり、いい感じになっている。道ぞいの草むらを探しながらあるいていると、エサキキコモンセセリが、占有行動をしているのを見つけることができた。10カット以上、撮影することができた。午後4時を過ぎたので、宿に帰ることにした。帰り道では、ワモンチョウ、メスチャヒカゲ、ワイルマンクロヒカゲ、タカサゴイチモンジを撮影することができた。
 明日は、天候が良ければ、早朝に近くの丘に行き、その後、8時45分のバスで、拉拉山の林斑口へ行く予定である。

● 7月3日  上巴陵・林班口  午前中 晴れ 時々 曇り 午後 雨 時々 曇り
 7時に宿を出て、近くの丘に行った。しかし、時間が早いのか、チョウは少なく、キマダラコチャバネセセリ、アカネシロチョウがいただけであった。そこで、宿に戻り、林班口へ行く支度をした。
 林班口行きのバスは、9時5分に来ることになっているが、20分前後は違っていて普通であるので、8時40分には、バス停で待っていた。すると、8時55分にはやってきた。
 そして、10分後には、林班口に着くことができた。帰りのバスは、13時30分と15時30分があるので、どちらかに乗らなければならない。
 林班口のバス停の先には、小さな草原があり、色々なチョウが姿を現す。早速行ってみると、タイワンコヤマキチョウがいた。さらにモンキチョウの白色型の♀がいたのであるが、残念ながら撮影することができなかった。昨年も♂がいたのに撮影できず、悔しい限りである。シロツメクサの群落があるので、ここで発生していると思われる。他には、大したものがいないので、バス停に戻った。すると、ダイミョウキゴマダラが道路の壁で、ミネラルを吸っていた。数カット、撮影することができた。さい先がいいと思いながら、林班口を少し下った所から山道があったので、登ってみることにした。
 果樹園の道なので、登りはキツイ。ゆっくりと登って行った。すると、センダングサの群落があり、タカサゴシジミが吸蜜していた。このシジミチョウは、飛ぶのは早いが止まると動かないので撮影は楽である。数カット撮影することができた。さらに進むと、ミズキの花が咲いていて、オオベニモンアゲハ、ミカドアゲハがいた。また、小さな花をつけた草があり、数頭のタカサゴシジミが吸蜜をしていた。これだけ多くのタカサゴシジミを一度に見たのは初めてである。
 その横には、梅の木があり、実が腐って辺り一面に落ちていた。すると、そこにオスアカミスジの♂が止まっているではないか!綺麗な個体であった。こんなに近づいて撮影できるなんで、初めてである。ところが、しばらくすると、3頭の♂が現れ、♀までやってきた。たくさんの写真を撮ることができた。
 山道は、さらに険しく、ゆっくりと登っていくと、果樹園の私有地になり、門があったので、引き返すことにした。
 先ほどの梅の木までくると、何と、10頭以上のオスアカミスジが止まっているではないか!♀まで一緒に吸蜜しており、壮観な風景であった。タイワンキマダラヒカゲもおり、撮影することができた。
 ところが、急に雨が降り出し、撮影ができる状態でなくなった。急いで傘を差し、下山することにした。
 バス停の雨宿りができる場所に着くと12時であった。バスが来るまで、1時間半はあるので、昼飯を食べながら、ゆっくりすることにした。
 バスは、時間通りにやってきて、13時40分には、宿に戻ることができた。雨は降り続いていた。
 そこで、写真の整理をしていると、だんだんと小雨になり、午後4時ころには日差しが射してきた。そこで、近くの丘に行ってみることにした。
 丘では、タカサゴシジミ、アトムモンセセリを撮影することができた。
 宿へ戻ると、主人がいたので、6日は、新幹線の桃園站まで行くので、タクシーを8時に呼んでほしいと頼んだ。しばらくすると、主人が部屋にやってきて、タクシーではなく、友人が車で送るが、3000元でどうかと言ってきた。この上巴陵に桃園から来るのにタクシーで2000元だったので、それを言うと、下に友人がいるので来てほしいという。そこで降りていくと、中年の親父がいた。時間は7時で、来た時と同じ2000元ならオッケーであることを言うと、すんなり了解してくれた。1時間、早く移動でき、この日は、碧緑まで行かなくてはいけないので、こちらとしてもありがたい話である。
 明日は、東の林道に行き、昨年は、スミナガシ、ルーミスシジミがいたポイントまで行ってみようと思う。

● 7月4日  上巴陵・東の林道  曇り 時々 晴れ
 8時に宿を出て、近くの丘に行ってみた。しかし、タカサゴイチモンジがいただけで、他には大したものがいなかった。そこで、東の林道に向かった。
 林道に入ると、最初に現れたのは、タイワンコムラサキであった。今年は、数が少ない。さらに進んでいくと、タカサゴイチモンジ、スギタニイチモンジが樹液で吸蜜している場所を見つけた。オオムラサキも上空を飛んでいたが、タカサゴイチモンジに追いかけられていた。今年は、オオムラサキが極端に少ない。
 さらに進むと、竹林の周りには、ワモンチョウが多く、新鮮な個体が見られた。そこで、パイナップル液のトラップを掛けて、帰りに確認することにした。
 しばらく進むと、竹林の横の草むらに、シロウラナミシジミほどの大きさであるが、弱弱しく飛ぶ白いシジミチョウを見つけ、止まったのを確認した。急いで撮影すると、珍蝶のシロシジミであった。数カット、撮影することができた。その後は、竹林の中に消えていった。

上巴陵の部落
 その後は、オスアカミスジの♂と♀を撮影できたが、普通種が多く、めぼしいものはいなかった。
 そして、ようやく目的のスミナガシがいたポイントに着いたが、全くいなかった。仕方なしに戻ることにした。
 その後、1時間ほど歩いて、行きにシロシジミがいた周辺を探すと、やはり2頭のシロシジミを見つけることができた。
 また、トラップを掛けた場所には、ワモンチョウが吸蜜に来ており、綺麗な写真を撮ることができた。
 今年の東の谷は、あまり成果がなかった。明日は、バスを使って、下巴陵を探索してみようと思う。

● 7月5日  上巴陵・下巴陵  曇り
 下巴陵の林道と巴陵古道にバスで行く方法を考えた。
 山を下る9時30分のバスで、下巴陵の検査站の手前で降ろしてもらう。というのは、上巴陵に来るとき、土砂崩れで封鎖されていた林道の入口にブロックがなく、開通している様子であったからである。この林道が探索できれば、かなり面白いと思う。その後は、検査站まで歩くのは、下り道で10分間なので楽である。その後、巴陵古道を探索する。帰りは、検査站を13時00分のバスに乗るならば、終点の林班口まで行き、下りの15時30分のバスに乗って上巴陵で降りる。検査站を15時00分のバスに乗るならば、上巴陵で降りるという方法である
 9時10分に宿を出て、バスを待った。バスは時間通りの9時30分に来た。そして、スマフォで現在位置を確認しながら進み、北へ向かう林道の手前で下車鈴を押した。すると、運転手から、「降りたいのですか?」と聞かれたので、「はお、降りたいです。」と答えると、バスを止めてくれた。昨年もそうであったが、降りたい場所があるとそこで降ろしてくれるのはありがたい、
 北へ向かう林道は、昨年に比べると整備されていた。これなら、崩壊した箇所の林道は修復されているのではないかと期待した。しかし、崩壊した場所に着いてみると、やはり同じであった。道はスパッとなくなり、眼下に300mの断崖を見下ろすことができた。危険なので、早々に退散し、巴陵古道生態園区に向かうことにした。

下巴陵の北へ向かう崩壊した林道
 巴陵古道では、ムラサキツバメ、ワタナベアゲハを撮影することができ、オオムラサキがいたが見ただけであった。今年は、オオムラサキの発生数が少ない。
 下の国道まで降りたので、下巴陵の河川敷に行ってみることにした。アオスジアゲハが多く、タカサゴイチモンジを撮影することができた。しかし、他にはいないので、上巴陵に戻ることにした。
 午後12時40分にバスがあるバスなのだが、実際に来たのは、午後1時20分で、何と40分遅れであった。そのまま林班口まで行く方法もあったが、この曇りの天候では厳しいと感じ、撮影を終えることにした。
 明日は、碧緑への大移動である。無事着くことを願いたい。

● 7月6日  上巴陵→桃園→台中→埔里→碧緑  曇り
 上巴陵を7時にタクシーで出発し、9時20分には、新幹線の桃園站に着くことができた。そして、新幹線で台中站へ着いたのが、10時30糞であった。そこで、予約していたタクシーに電話し、埔里には12時ころに着くことを連絡した。
 埔里に着いたのは、12時調度であった。タクシー乗り場に行くと、ちゃんとタクシーは来ており、運転は、私を見つけるとすぐに笑顔で近寄ってきてくれた。本当に、時間を守ってくれ、信用できる運転手である。
 そして、途中で、コンビニでコーヒーを買ってきてくれ、碧緑に向かった。
 碧緑の宿に着いたのは、午後2時30分であった。さっそく、部屋に入り、撮影の支度をし、晩飯は午後5時にしたいことを宿に人に告げ、バンダイホシチャバネセセリのポイントに向かった。
 途中、アリサンルリシジミを撮影することができた。そして宿を出て45分後、ポイントに着いた。しかし、何もいなかった。夕方には、チョウは吸蜜に来ないことが分かった。仕方がないので、宿に戻ることにした。途中、アリサンルリシジミに交じって、ホリシャルリシジミがいるのを見つけ、撮影することができた。
 宿に着いたのは、午後4時40分で、急いで風呂に入り、食事に間に合うことができた。ここの食事は、これまでの台湾の晩飯の中でも最高に美味い。6品があり、驚きである。
 明日は、5時に朝食を取り、5時半には、宿を出発し、神木まで歩いていく予定である。おそらく、着くのは7時半の予定である。ゼフィルスよりも、その他の新記録種を狙いたい。

● 7月7日  碧緑  曇り 午後 雨
 4時50分に朝食を取り、5時調度には、宿を出た。そして、神木に向かって歩いてると、1台の車がやってきた。ダメもとで、手を振ってみると止まってくれた。そこで、神木まで行きたいのだが、乗せてくれないかと頼むと、OKという。ありがたい! 15分ほどで、神木に着くことができた。丁寧にお礼を言って、車から降りた。本当に、台湾の人は親切である。
 早速、林道に入った。そして6分後には、神木のポイントに着くことができた。時間は、5時半で、曇っているし、気温も低いので、何位もいない状態であった。仕方がないので、気温が上がるまで待つことにした。
7時を過ぎても、まだ何もいない。天候が曇っているせいである。
 8時を過ぎたが、撮影者は誰もいない。曇っているとチョウが飛ばないことを知っているからだろうか。8時15分頃、ようやくタカムクシロチヨウ、マイルマンシロチョウが飛び出した。そして、太陽の光が雲間から、時々差すようになった。すると、ウラクロシジミ、カノミドリシジミが飛ぶようになった。そのうちの1頭が、目前のキャベツの上に止まり、翅を全開して日光浴を始めた。たくさんの写真を撮ることができた。その後は、アリサンオナガシジミを撮影することができたが、曇っているため、他には全くいない。そこで、9時をめどに下山することにした。
 神木を出て、1時間ほど歩いた渓流が流れている場所には、黄色の花をつけた大きな木があった。何かいないだろうかと見ていると、アリサンルリシジミ、ヤマナカウラナミジャノメ、タカムクシロチヨウが吸蜜に来ていた。そして、小さなセセリがいるのを見つけた。その大きさと真っ黒な色から、バンダイホシチャバネセセリと感じた。そこで急いで撮影してみると、間違えがなかった。数カット、撮影することができた。そして、森林の奥へ消えていった。

 ここでバンダイホシチャバネセセリがいるならば、あのポイントでは、たくさんいるに違いないと思い、急いで下山することにした。ポイントまでは500m程である。久しぶりに小走りであるが、走った。そして、ポイントに着いた。しかし、花はあるものの、全くチョウがいない。先回の撮影から9日間も経っているので、花の蜜が出る時期が終わってしまったのであろう。そこで、先ほどバンダイホシチャバネセセリがいたポイントまで戻ることにした。この500mの登りはきつかった。そして、ようやく着いた。バンダイホシチャバネセセリを探したが、見つからない。ホソバキボシセセリ、ユウマダラセセリが来ていた。仕方がないので、しばらく粘ることにした。そして1時間が過ぎた。しかし、バンダイホシチャバネセセリはやって来なかった。
 そこで、宿に向かうことにした。しばらくすると、雨が降ってきた。傘を差し、カメラが濡れないように抱え、ようやく宿に着くことができた。
 午後は、大雨になり、本日の撮影は終了となった。
 明日も天気は雨の予報で、明後日は晴れの予報なので期待したい。

● 7月8日  碧緑  晴れ 午後 曇り
 6時に目が覚めると、何と、快晴ではないか! 急いで支度をし、朝飯はいらないことを宿の人に告げ、外に出た。すると、1台の車が神木方面に走ってきた。そこで手を振ると、止まってくれた。神木まで行きたいことを告げると、乗っていいという返事だった! 本当にありがたい! 6時半には、神木の林道の入口にいた。
 日が射しているので、早速、エサキミドリシジミが翅を全開して迎えてくれた。タカサゴミドリシジミ、アリサンオナガシジミもいた。しかし、6月とは違って、個体数が少ないし、少々痛んでいる個体もいた。♀が出るのではないかと期待したが、見つけることはできなかった。珍蝶のタイワンイチモンジシジミもいたが、逆光で撮れず、そのまま消えてしまった。
 9時になると、雲が出始め、あっという間に曇ってしまった。それなら、神木から宿まで、歩いて行きながら撮影した方が面白いのではないかと考え、身支度をして出発した。
 10時ころになると、時々、日が射すようになった。すると、国道の所々で、ゼフィルスが飛んでいるのが見えた。しかし、遠いので撮影はできなかった。しばらくすると、アリサンオナガシジミが現れ、近くの木に止まった。しかも翅を全開し、黄褐色の斑紋が見えるではないか! 数カット、撮影することができた。さらに、タカサゴミドリシジミが現れ、翅を全開にしてくれた。タカサゴミドリシジミの開翅は初めてである。本当に幸運であった。ウラクロシジミも撮影することができた。
 1時間半ほど進むと、白い花に、タカサゴミヤマシロチョウが吸蜜に来ていた。国道の壁面では、珍蝶のゴマダラシロチョウが吸水しており、綺麗な写真を撮ることができた。しかし、昨日、バンダイホシチャバネセセリがいたポイントは、ここだけ風が強いためか、チョウの数が少なく、アリサンルリシジミを撮影できただけであった。
 そして、12時には、宿に着くことができた。
 昼からは、宿の下方を探索した。ミヅキの花が道路のすぐ近くで咲いていて、タカムクシロチョウが6頭、吸蜜に来ていた。たくさんの写真を撮ることができた。午後3時を過ぎるとガスが出てきたので、今日は、ここまでにし、宿に戻ることにした。10日の午前中は時間があるので、このコースを探索してみようと思う。
 明日は、宿と神木を往復ヒッチハイクするので、往復用の2枚のプラカードを作った。明日が楽しみである。

● 7月9日  碧緑  快晴
 5時に朝食を取り、5時半には、宿の前の国道に立った。いよいよプラカードの活躍である。大きく神木と書き、その下に小さく5KMと書いてある。A4の紙に書いたものである。すると、1台の車が国道登ってきた。思い切って、プラカードを掲げ、手を振った。すると、車は止まってくれたではないか! 駆け寄って、神木まで行きたいけど、乗せてくれるか?と聞くと、どうぞ! と言ってくれた。助手席を開けてくれた。そして、チョウの写真を撮っていることなど、色々な話をした。その青年は、仕事で台南に向かう途中だそうで、33歳の若さであった。台湾の人たちは、本当に親切ですねと言うと、笑顔で答えてくれた。楽しい15分間であった。そして、神木に着いた。
 神木の駐車場の横の樹林では、無数のミドリシジミが乱舞していた。しかし、距離が遠いため、撮影はできなかった。そこで、林道に向かうことにした。
 林道に入ると、やはり2頭のエサキミドリシジミが地面すれすれの場所で乱舞していた。太陽の光がほとんど入らない場所なので、撮影は難しかったが、連写で撮影を試みた。そして、しばらく撮影した後、林道を進んだ。
目的地に着くと、今日は平日なので誰もいなかった。エサキミドリシジミが乱舞し、太陽の光を受けようと翅を全開にして止まっている。これが見納めかと思うと、これまで何枚も撮影してきたのであるが、また、撮影してしまう。ウラクロシジミ、タカサゴミドリシジミ、アリサンオナガシジミ、ニイタカアカシジミが次々と現れ、神木のすごさを実感することができた。
 その後、撮影者が5人になり、何か面白いものを見つけると、読んでくれるようになった。バンダイホシチャバネセセリ、タイワンイチモンジシジミを撮影でき、さらに探していたタケウチセセリを撮影できたことは、最高に嬉しかった。さらにミヤマヒカゲ、スギタニイチモンジ、オジロヒカゲを撮影することができた。
 一緒に撮影していた台湾の人が、私に日本のどこから来たのですか、と尋ねてきた。岡崎と言っても分からないので、名古屋と答えたが、それでも分からなかったので、東京と大阪の真ん中と言うと何となく場所が分かったみたいであった。そして、台湾のチョウの話になり、スマフォで私のホームページを見せると、とても驚いてくれ、つい最近、ネットで見たと言ってくれた。しばらくは、撮影ではなく、ネットの話で盛り上がってしまった。そして、一緒に記念撮影をさせてくれと頼まれた。これで、この神木で4回目である。台湾の人たちが、私のホームページを見ていてくれることが分かり、感謝と同時に責任も感じた。
 ところが、12時を過ぎたころ、撮影を始めようとすると、カメラの調子が悪くなり、ついにエラーメッセージが出て、撮影できなくなってしまった。これは大変である。仕方なしに、宿へ戻ってカメラを取り換えることになった。
 国道まで戻り、車がやってくるのを待った。やってきたのは、パトカーであった。ダメもとで、何家果樹と書いた紙を掲げ、手を振ってみると、止まってくれたではないか! ここまで行きたいと言うと、乗っていいという。パトカーの助手席に乗せてくれた。これで、パトカーに乗るのは2回目である。シートベルトをして、こわごわ話をしながら宿まで着いた。警察官の人も宿で降り、宿の人たちと楽しそうに話をしていた。本当に台湾の人たちは親切であることを実感した。
 その後、昼食をとり、カメラを交換して、宿から下る国道沿いを撮影することにし、宿から少し下った場所に、ミズキの花があることを見つけていたので、そこに急いだ。
 ミヅキの花には、タカムクシロチョウが数頭、吸蜜に来ていた。他には、何かいないかと探したが、ヤマナカウラナミジャノメ、タカムクウラナミジャノメがいただけであった。仕方がないのでさらに道を下ろうとすると、小さなシジミチョウが現れた。珍蝶のウラジロカラスシジミだ!しばらくは、ミズキの花で吸蜜していてくれたので、たくさんの写真を撮ることができた。カメラが壊れなければ、撮影することはできなかったと思うと、不幸中の幸いである。
 その後は、アサギシジミ、アリサンルリシジミを撮影でき、宿に戻った。
 これで、今回の撮影旅行の目標であった新記録種20種、撮影枚数3万枚を達成することができた。
 明日は、タクシーが12時に迎えに来るので、宿の周辺を探索する予定である。

● 7月10日  碧緑→台北  快晴→雨
 朝7時に起きてみると快晴であった。そこで、朝食を済ませ、宿から下る国道沿いを探索することにした。
 まず、昨日、ウラジロカラスシジミがいたミズキの花が咲いている場所に向かった。着いてみると、まだ日が射していない状態で、タカムクシロチヨウが2頭、いただけであった。そこで、さらに下った渓流のある場所に向かった。
 約500m離れた渓谷に着いてみると、渓谷全体に日が射しており、たくさんのチョウが飛び回っていた。最初に撮影できたのは、高山蝶のタカサゴミヤマシロチョウであった。時期が遅いのに綺麗な個体であった。次に現れたのは、ゼフィルスで、ウラクロシジミ、ニイタカアカシジミ、アリサンオナガシジミで、タカサゴミドリシジミは、翅を全開にして、綺麗な緑色の翅を撮影させてくれた。さらに、オスアカミスジ、ダイミョウキゴマダラの♀も現れ、綺麗な写真を撮らせてくれた。夢中で写真を撮っていると、あっという間に1時間が過ぎてしまった。そこで、ミズキの花が咲いているポイントに戻ってみることにした。
 着いてみると、ミズキの花に、ミドリヒョウモンが止まっているではないか! 数カット、撮影することができたが、止まっていた時間は10秒間程度で、あっという間に樹林に消えていった。その後は、何か来ないかと30分ほどは待っていたが、ヤマナカウラナミジャノメだけであったので、渓谷に戻ることにした。
 渓谷に着くと、ウスアオゴマダラシジミが来ており、タイワンコヤマキチョウも撮影することができた。ひょっとして、バンダイホシチャバネセセリがいるのではないかと探したが、いなかった。それでも、スギタニイチモンジ、タカサゴミヤマシロチョウを撮影することができた。しかし、宿に戻る時間を考えると、もう一度、ミヅキの花のポイントで時間を取りたいので、渓谷を離れることにした。
 ミズキの花のポイントには、タイワンタイマイが吸蜜に来ていた。そして、小さなセセリチョウが現れた。ひょっとして、バンダイと思ったが、ホソバキボシセセリであった。次にも、小さなセセリが現れた。また、ホソバかなと思ったとき、ファインダーに見えたのは、バンダイホシチャバネセセリであった。たくさんの写真を撮影することができた。そして、時間になったので、宿に戻ることになった。
 11時に宿に戻ると、タクシーがちょうどやってきた。約束の時間よりも1時間も早く来てくれていた。本当に、この運転手は信頼のおける人であると感じた。しかも、私が昼飯を食べる時間がないだろうと、パンを2個、買ってきてくれており、感謝感謝である。
 2時間半後、埔里に着き、30分発の台中行きのバスに乗ることができた。そして、50分後、台中に着き、さらに10分後、台北行きの新幹線に乗ることができた。
 台北は、台風8号の影響で、雨であった。そして、予約していたホテルにチェックインすることができたが、明日の撮影は難しいそうで、写真の整理の一日になりそうである。

● 7月11日  台北  豪雨
 朝6時に起きてみると、台風8号は、台北に最接近しており、豪雨になっていた。しかし、ホテルがしっかりしているので、全く感じなかった。今日は、終日、写真の整理である。

● 7月12日  南雅  晴れ 後 雨
 朝5時30分に起き、6時34分発の基隆行きの列車に乗り、台北の東方にある南雅へ向かった。ここは、昨年、カメヤマウラナミジャノメがいた場所である。
 基隆には、7時15分には着くことができた。そこからは、バスで南雅に向かった。8時30分には、南雅の部落に着くことができた。
 南雅から渓谷には、歩いて15分である。そして渓谷の入口にある駐車場に着いた。
 渓谷の様子は、全く変わっていなかった。駐車場の横には大きな岸壁があり、そこに生える笹類がカメヤマウラナミジャノメの食草である。すると、早速、ウラナミジャノメ類が現れた。撮影してみると、残念ながらタイワンウラナミジャノメであった。そこで、渓谷の奥に入ることにした。
 進んでいくと、数頭のウラナミジャノメ類が現れ、すべて撮影して確認したが、タイワンウラナミジャノメであった。その他には、クロボシセセリ、オオゴマダラ、タイワンフタオツバメ、タテハモドキを撮影することができた。
 昼過ぎまで粘ったが、雨が降ってきたので、台北へ帰ることにした。7月上旬は、残念ながらカメヤマウラナミジャノメは発生していなかった。時期が違ったようである。
 帰りは、バスがなかなかやって来ず、1時間待ってようやく基隆行きのバスが来た。そして、午後4時には、台北に着くことができた。
 明日はついに帰国である。午前中は、写真の整理をしようと思う。

● 7月13日  台北  曇り
 午前中は、写真の整理をし、11時30分にホテルをチャックアウトし、台北駅からMRTで桃園国際空港へ行った。そして、予定通り、午後3時45分にはフライトし、午後8時には、セントレアへ着くことができた。

● エピローグ
 これまでの6年間で、これほど充実した撮影ができた旅行はなかったと思う。天候にも恵まれ、新記録種20種、総撮影枚数32007枚を達成し、行きたかった場所にはすべて行け、撮影したかったバンダイホシチャバネセセリを20頭以上も記録でき、その写真枚数は、1500枚を超えている。今後、バンダイホシチャバネセセリの個体変異を統計的に分析し、ムシャホシチャバネセセリとの関係を明らかにしたいと思う。
 撮影場所としては、碧緑は、やはり珍蝶の宝庫であった。屯原は、崖崩れで危険な場所となってしまった。梅峰よりもナールー湾の方が今回は珍蝶が多かった。拉拉山は、オオムラサキが激減しており、珍蝶は少なかった。南雅は、発生の時期がずれていた。
 また、今回は、碧緑で、慈恩と神木への移動が10回あったが、歩いたのは2回で、後の8回は、車で移動できた。ヒッチハイク、林本初さん、同じ宿の人のご厚意で、乗せていただけることができた。特にヒッチハイクでは、毎回、最初の車が止まってくれて乗せてくれたこと、パトカーへも2回、乗せていただいたことなど、台湾の人たちの親切さに本当に感謝している。
 次回は、今年の11月に再び台湾を訪れる予定である。台湾南部を中心に調査を行いたいと思う。




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