『 第23回 ベトナム撮影旅行記 』

2023年3月26日〜31日
・・・ 蝶の宝庫・ベトナムのクックフォン国立公園を訪ねて ・・・

       杉 坂 美 典..........
● プロローグ
 新型コロナウィルスの影響で,海外旅行が難しくなったが,最近,ようやく各所に旅行に行けるようになった。そこで,規制のほとんどないベトナムに行ってみることにした。
 3月下旬は天網が良いはずでこの時期を選んだのであるが,あいにく,4日間の撮影日は,29日以外は小雨で,29日のみ曇りの予報である。そこで,上下の雨具,帽子,ロングのスパイクシューズ,カメラの防水カバー,リュックの防水カバー,トントン棒2本を準備した。
 できれば,目標は50種,10,000枚の撮影で,美麗種のタイリクシマジャノメが撮れればよいし,スソビキアゲハやイナヅマチョウの仲間を見てみたいと思う。
 さて,どのような旅になるであろうか。


● 3月26日   セントレア → ベトナム ハノイ→ニンビン
 久しぶりの海外旅行で少々疲れたが,5時間半のフライトを経て,ハノイの国際空港に到着することができた。ハノイからニンビンまではタクシーで,高速道路は混んでいる場所があったものの約3時間で,無事,ニンビンのホテルに着くことができた。明日からは,クックフォン国立公園の探索であるが天気予報が小雨なので,蝶がいそうな場所でトントン棒を使って追い出して撮影してみようと思う。
 タクシー代は,ホテル代,レストランの食事代などと一緒に,最後に払えばよいとのことであったので,非常に気楽になった。


● 3月27日   クックフォン国立公園  終日,小雨
 タクシーは,8時に来た。クックフォン国立公園の奥の駐車場までの地図を見せて,OKとのことで出発である。年を聞いたら26歳の感じの良い運転手であった。約1時間で,クックフォン国立公園の入口に着くことができた。ゲートの横には入園券売り場があり,一人60000ドンで,タクシーの運転手代が20000ドン,合わせて80000ドン(450円)であった。ゲート前では,係の人がいて,チケットを渡すと,少し切れ目を入れて返してくれた。

入園料を支払う場所

 入口から奥の駐車場までは30分間で,雨でなければ,膨大な数の蝶が飛んでいるはずであるが,全くいない。予定通りの9時半に奥の駐車場に着いた。4日間,送り迎えをしてもらうので,チップとして,運転手に10万ドンを渡したら,びっくりしていた。タクシーの迎えが来るのは,15:00としたので,5時間半の探索である。駐車場からは,北へ延びる小道と西に延びる小道があり,まず,北の山道を進むことにした。
 小雨が降っており,やはり何もいない。岩がごつごつと現れ,滑りそうで,登りがきつい。スパイクをはいてきてよかったと感じた。

岩場を進む道

 ジャングルの中の小道を進むと,開けた場所に出た。イネ科の植物の群落であった。腰までくらいの高さなので,草むらの奥まで入ってたたいてみると,コウラナミジャノメが飛び出してきて,葉の裏に止まってくれた。ようやく,ベトナムの蝶に出会うことができた。

イネ科の植物の群落

 その後は,3qほどかなりきつい岩道のジャングルを進んだが,太陽の光が地表に届いていない場所ばかりであった。巨木が林立し,小さな谷間にバナナの木が数本生えていた。

バナナの木


巨 木

巨 木

 これ以上先に進むのは諦めて,最初の駐車場に戻ることにした。駐車場に着くと,残り時間は2時間だった。午後1時であったが,全くお腹はすいていないので,そのまま,西の小道を探索することにした。
 西の小道は,平坦な道が続いた。しばらく進むと,開けた場所に小さな農園があり,キャベツを栽培していた。すると,タイワンモンシロチョウ,モンシロチョウが発生していた。

タイワンモンシロチョウ ♂ ♂

 さらに小道を進むと,イネ科の植物の群落が続き,コウラナミジャノメ,コジャノメが次々と飛び出した。ホシゾラセセリやデフィシエンスコジャノメも出現した。これまでの疲れがあっという間に吹っ飛んでしまった。すると,白いストライプのジャノメチョウが現れた! 何と,目的種のタイリクシマジャノメである。きれいな個体で久しぶりに感動した!たくさんのカットを撮ることができた。

タイリクシマジャノメ ♀

 予定の1時間が過ぎ,引き返すことになった。明日は,この西に向かう小道を探索することにした。
 ホテルへ帰って,歩いた距離を確認すると,11.7q,撮影した枚数は,1,338枚で,10種類であった。夕食は,非常に美味しかった。腰とふくらはぎが痛いので,湿布を貼って寝ることにした。


● 3月28日   クックフォン国立公園  終日,曇り
 タクシーは,8時に来て,予定通り9時30分には,奥の駐車場に着くことができた。今日は,西のルートを探索する。
 最初のポイントのキャベツ畑に着いた。昨日とは違い,倍の数のタイワンモンシロチョウ,モンシロチョウが飛んでいる。その中に,タイワンキチョウもいる。上空には,大型のマダラチョウ類が飛んでいるが,全く降りてこない。近くのイネ科の植物の群落には,コウラナミジャノメ,キレバヒトツメジャノメ,コジャノメ,そして,ホシゾラセセリがいて,たくさんの写真を撮ることができた。しばらく撮影してからして,先に進んだ。
 少し歩くと,山側に道があった。そこで入ってみると,なかなか良い環境で,明るくて,イネ科の群落が広がっている。最初に現れたのは,ムラサキオナガウラナミシジミであった。
 初めてのシジミチョウなので感動した。すると近くの葉に大型のタテハチョウが止まった。何と,アオヘリコイナズマの雌であった。
 
アオヘリコイナズマ ♀

 一通りの撮影ができたので,元の道に戻った。コウラナミジャノメ,キレバヒトツメジャノメ,コジャノメ,マルサラコジャノメは,とても多い。さらに進むと,テリトリーを張っているセセリチョウが現れたが,止まるのは葉の裏側で,翅の一部しか撮影ができない。20分間ほど待ったが,諦めることにした。
 道はだんだんと暗くなり,様子が変わってきた。出てきたのは,シラホシヒメワモン,白線が美しいマルサラコジャノメ,コノマチョウの仲間である。しかし,すぐにジャングルの茂みに入ってしまうので撮影は難しい。そして,予定の3時間が過ぎ,引き返す時間になった。
 帰り道の途中では,クロテンシロチョウ,シロオビクロヒカゲ,ホシゾラセセリなどを撮影でき,タイリクシマジャノメも見つけることができた。
 駐車場に着くと,まだ1時間あったので,駐車場に来る道を探索した。
 道の横は暗いジャングルで,あまり蝶がいるような環境ではなかった。まだ,道沿いの明るい場所の方がよさそうであった。キレバヒトツメジャノメがいただけであった。そこで,駐車場に戻ることにした。しばらく進むと,葉上にホソチョウが止まっていた。きれいな個体であった。駐車場に着くと,迎えのタクシーがいたが,15時までは,30分間ほど時間があったので近くを探索すると,モンシロチョウ,タイワンモンシロチョウ,ミナミキチョウがいた。林の下草には,シラホシヒメワモンがいて,たくさんの写真を撮ることができた。
 タクシーで帰る途中,公園の真ん中あたりにもう一つのゲートがあり,その周辺は,明るく,イネ科の植物や各種の花が咲いていたので,明日は,ここを起点として撮影することにした。
 ホテルへ帰って調べたら,歩いた距離は,7.7q,撮影した種は19種,2,022枚であった。雨が降らなかったおかげである。
 しかし,足の筋肉痛がひどくなり,ホテルの階段の上り下りが厳しくなってきた。年を感じる。


● 3月29日   クックフォン国立公園  うす曇り,時々晴れ
 クシーは,来るときに渋滞にはまったそうで,8時15分に来た。予定通り9時30分には,2目のゲートで降りた。そして14時に途中で会うように迎えに来て,途中のHO‐MACで30分ほど探索してからホテルに帰ることを伝えた。
 来た道を歩き始めると,センダングサが咲いている場所には,各種のシロチョウ類が飛来し,ビロウドセセリ類,クロセセリなどが集まり,マダラチョウ類も飛んでくる状況で,昨日までとは雲泥の差であった。

メインルート

 さらに,道路横に湿地帯があり,イネ科の植物の群落になっていた。スパイクシューズと防水のズボンをはいているので入ってみると,湿地性のニセキマダラセセリ類がたくさんいて,ミスジチョウ類,マダラチョウ類,ホソチョウなどが,次から次へと現れ,歓喜の時間を過ごすことができた。
 メインルートに戻り,しばらく進むと,川が流れていて橋が架かっている場所があった。そこで,トラップをかけてみた。すると,すぐにいろいろな蝶が集まり始め,イシガキセセリ,後翅のオレンジ色が美しいビロウドタテハ,オオシロスジマダラ,タッパンルリシジミ,キレバイシガケチョウなどがやってきた。
 さらに進むと,コノハチョウ,フタオチョウの仲間,イナズマチョウの仲間などが,次から次へと現れてくる。そして,ふと足元をみると,何と,シロスソビキアゲハが止まっているではないか!GIF動画を作れるほど,いろいろなカットで撮影することができた。最高である。
 HO‐MACは,大きな池があり,その周辺は遊歩道になっている。

HO-MAC

 焚火の後には,100頭ほどのシロチョウ類が集まっているのを見ることができた。トガリシロチョウ,クモガタシロチョウ,タイワンスジグロチョウ,ベニシロチョウ,タイワンモンシロチョウ,キチョウ類である。チャイロタテハ,イシガケチョウなどもおり,池の周りを一周した。メインルートとは違う種類の蝶を撮影することができた。そして,迎えのタクシーと合流し,ホテルへ帰った。
 歩いた距離は,7.6q,撮影できた種は,40種以上,撮影枚数5,572枚であった。本当に充実した一日であった。
 明日は,最終日なので,今日のコースを探索する予定で,夕方には,ホテルを出発し,ハノイに向かう。


● 3月30日   クックフォン国立公園  小雨,ときどき曇り
 撮影から帰ってきたときに,すぐに着替えができる準備をして,チェックアウトを7:50に済ませ,ボストンバックをフロントに預けた。タクシーは,予定通り8時に来た。小雨が降っているので,あまり期待はできないと思いつつ,目的のゲート前で降りた。タクシーの迎えは,15時にした。車を降りたときには雨は止んでいた。
 昨日,数えきれないほどの蝶が集まっていたセンダングサの群生地帯には,全く蝶がいなかった。そこで,昨日,ニセキマダラセセリがいた湿地帯に行くことにした。途中,ホシボシシジミタテハ,コウラナミジャノメ,キレバヒトツメジャノメ,クロセセリを撮影することができた。そして上空が開けた場所に出たので,見上げてみると,2頭のキシタアゲハが悠然と飛んでいた。ベトナムに来たんだ!と実感することができた。
 ようやく湿地帯に着いた。さっそく意を決して入ってみると,ホソチョウが雨を避けてイネ科の植物にぶら下がっていた。そこで,周りをトントン棒でたたいてみると,小型のセセリが飛び出した。ニセキマダラセセリであった。さらに先に進むと,ヒメイチモンジセセリ,イチモンジセセリ,ムモンセセリ,ホシゾラセセリの仲間などを撮影することができた。
 そこで,HO-MACの近くの湿地帯に向かうことにした。1時間ほどで着くことができた。
 最初に姿を現したのは,ニセキマダラセセリであった。やはりこのセセリは湿地性が強い。すると,茶色の小型のセセリが現れた。何と,日本のホシチャバネセセリとそっくりなセセリチョウである。しかも数頭,狭い範囲であるが見つけることができた。さらに湿地を進むと,シロスソビケアゲハを見つけることができた。たくさんの写真を撮ることができた。
 メインルートに戻り,HO-MACまで行ったが,タイワンモンシロチョウがいただけであった。そこで,再度,湿地帯に行ってみることにした。リュウキュウミスジ,キミスジを撮影することができた。待ち合わせの時間が近づいてきたので,メインルートに戻り,センダングサの群落をたたいてみると,タイワンスジグロチョウ,ホシボシシジミタテハ,ホシゾラセセリなどを撮影することができた。そして,時間通りにタクシーがやってきた。そして,ホテルへ向かった。
 ホテルで荷物を受け取ると,トイレで着替えをし,ハノイのノイバイ国際空港に向かった。途中,渋滞があったが,3時間ほどで着くことができた。タクシーの運転手は,毎回,途中でペットボトルの水を買って,差しいれてくれたり,今日は,密閉された袋に入ったパンを2つ買ってきてくれたりし,本当にお世話になった。最後にタクシーを降りるとき,財布にはドンが余っていたので,心づけとして渡したら,とても喜んでくれた。
 歩いた距離は,9.7q,撮影した種は21種,2,033枚であった。


● 3月31日   ハノイ → セントレア  曇り
 深夜便が少々遅れ,ノイバイ空港をベトナム時間0:30に出発した。そして,5時間かかってセントレアに着いたのは,日本時間7:30であった。機内では,ほとんど寝られなかったので,自宅へ帰ってから爆睡し,昼過ぎには目が覚めた。充実した6日間であった。


● エピローグ
 クックフォン国立公園は,蝶の多い場所であることは分かっていたが,これほどすごいとは,想定外であった。晴れておれば,もっと驚かされるであろう。今回は悪天候ながら,目標の50種,10,000枚の撮影を達成でき,狙っていた種も撮影することができた。
 蝶が多い時の撮影の反省としては,「2頭(兎)を追う者は1頭(兎)も得ず」である。狙った蝶を撮影しているとき,他の蝶が現れても,目線を外さないことが大切で,チラッとよそ見をしたため,最初の蝶がどこに行ったか分からなくなってしまったことが何度かあった。それからは,納得するまで狙った蝶を追うようにした。それに,ロングのスパイクシューズは,湿地に入る際の蛇対策にもなり,必需品であることが分かった。
 クックフォン国立公園に近く,それなりのホテルがあるのはニンビンの町で,この町は,まだ発展途上なので店が少なく,外食ができなかったのは残念であった。でも,ホテルのレストランの朝食,夕食は非常に充実していて大満足であった。
 なお,新型コロナウィルスの関係で,日本から出る時は関係ないが,ベトナムで航空機に乗る際,3回以上の接種照明がないと日本に入れないため,航空機に乗れないことが分かった。日本に入国する時に必要とは知っていたが,ベトナムを出る時にも結局は,航空機の中で日本の領空に入るわけで,証明書が必要なんだと分かった。
 次の外国の撮影旅行は,やはり台湾の珍種を求めて,東部の高地に行こうと思う




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