『 第13回 台湾撮影旅行記 』

 ・・・・・ 幻の蝶・フトオアゲハが翔く姿をこの眼で見たい ・・・・・

杉 坂 美 典....................................
● プロローグ
 今回の撮影旅行は、台湾の北東部にある羅東の町をベースとし、11日間の撮影日を設定してある。目的は、台湾の国蝶で、しかも特別天然記念物に指定され、種指定で国の法律で保護されているフトオアゲハである。個体数が少ない上に、台湾は今、梅雨のため、天候が悪い日が続きそうで、出会えるチャンスは少ないと思われる。撮影ポイントの太平山の鳩之澤へは、車で片道1時間10分の行程である。タクシーを往復使うしか方法はないので、経費もばかにならない。何とか、その雄姿を見たいものである。

● 5月15日  日本:晴れ  羅東 : 曇り
 午前11時40分、桃園国際空港に着くことができた。空港から台北までは、直通バスが国光観光から出ているので、それを使った。約1時間であった。台北から羅東までは、列車である。この切符がなかなか取れないことは分かっていたが、やはりそうであった。午後1時33分発の列車に乗りたかったのであるが、午後5時過ぎのものしか、座れる列車はないと言われてしまった。仕方がないので、その列車にすることにした。その列車に乗っている時間は、2時間少々であった。到着は、午後7時過ぎであった。そこで、列車が出るまでの4時間は、台北市立動物園へ行こうと考えた。まず、大きなバックを預けなければならない。コインロッカーを探すと、たくさんあったが、今日は、日曜日なので、全て使われていた。しかも、空くのを待っている人がたくさんいる状態である。これでは、動物園へは行けないので、直ぐに羅東へ行くことにした。無座席の切符なら手に入るはずなので、今、持っている切符を交換して、なるべく早い列車に変更してくださいと切符売り場の人に頼んだ。すると、その人が、ちょっと待っていてくださいと言って席から離れ、奥の部屋へ入っていった。しばらくして戻ってくると、切符を渡してくれた。何と、最速の列車の座席指定の切符である。どういうことだろうか? よく分からないが、お礼を言ってその場を後にした。列車は満席であった。そして1時間ちょっとで羅東に着くことができた。
 夜は、近くに夜市があるので、そこで晩飯を食べ、1日が終わった。
 明日は、天候が悪いが、太平山へ下見に行ってみるつもりである。

● 5月16日  太平山 : 曇り 後 雨
 今日は、天候が悪くなることは分かっていたが、下見で太平山へ出かけることにした。午前7時50分、タクシーに太平山の鳩之澤温泉に行きたいことを告げ、午後3時に温泉に迎えに来てほしいことを告げ、料金はいくらかと尋ねると、往復で2500元であった。片道、1時間10分の行程であるので、料金は、台湾のタクシーの中では普通である。
 太平山国家森林遊楽区への入口には、検問所があり、観光客は、一人150元の傷害保険代が必要であった。台湾の大きな国家自然公園は、このように観光客から傷害保険代を徴収しているのが普通である。この保険代は、2か月分であるので、支払い証明書があれば、その期間は、お金はかからない。検問所で支払い証明書を見せれば、通過することができる。
 鳩之澤温泉に着くと、タクシーに、再度、午後3時にここに迎えに来るように確認すると、運転手は、ここにいるので大丈夫と話してくれた。それならば、天候が悪くなるはずなので、好都合と安心した。
 鳩之澤でのフトオアゲハの撮影ポイントは、温泉の排水が沢に出る場所が有名で、2ヶ所ある。さらに、渓谷の所々にある段差を作っている鉄板付近も流れが弱く絶好の吸水ポイントとなっている。
 鳩之澤の駐車場から沢に出ようとすると、何と、橋を架ける工事をしていた。温泉の排水が沢に出る2ヶ所のぼぼ中央で、どう考えてもこの2つのポイントは、絶望であった。
 そこで、鳩之澤の上流を攻めることにした。温泉から沢は、100mも行かないうちに降りられることができた。しかし、初めから沢渡りで、水深はかかと程で浅いが、しっかりと靴の中は濡れた。沢の石は、全体に小さく、岩を伝って歩くことを覚悟していたが、非常に楽な沢登りであった。100mほど進んで、道の工事をしていた場所を過ぎると、絶好のポイントが連続する場所に出た。

 晴れておれば、ここにフトオアゲハが飛んでいることを想像すると、心がワクワクした。沢登りは、300mほど行うことができた。しかし、そこから先は、本流の激流を渡る必要があり、背後は100m程の断崖で、沢登りを断念した。後で分かったのであるが、ここは非常に危険な場所であった。
 一応、ポイントは分かり、まだ帰るには時間があったので、温泉に入っていくことにした。料金は、一人150元で、弱い硫黄の香りがするツルツルの泉質であった。しかも、巨大な露天風呂、樽の湯船4つがあり、最高であった。コインロッカーもあったので、貴重品を入れることもできた。
 風呂から出ると、11時であった。予定時間よりかなり早いが、タクシーに乗り込んで、ホテルへ帰った。
 明日は、若干、天気が良さそうなので、このポイントと、最初に沢渡りをした場所から下流も探索してみようと思う。

● 5月17日  太平山 : 曇り 時々 晴れ 後 曇り
 朝、7時55分、支度をしてタクシー乗り場に行くと、15台ほど止まっているタクシーの中に、昨日の車を見つけた。近寄ると、運転手も気が付いて、笑いながら寄って来てくれた。そこで、昨日と同じように鳩之澤温泉に行きたいことを告げると、不思議そうな顔をされたが、直ぐにOKが出た。途中、コンビニに寄って、昼食を買い込み、太平山に向かった。蘭東は、小雨が降っていたが、天気予報通り、太平山は、曇りで、時々晴れ間があり、陽光が差していた。運がいい。期待が高まってきた。
 8時55分には、沢に入ることができた。昨日、下見をした場所に向かった。そして、行き止まりのポイント(後述の危険個所)まで行ったが、残念ながら、何もいなかった。しかし、よく見ると、対岸に小道が通っているのが分かった。温泉場から上流に向かう道であることに違いなかった。そこで、沢を下り、沢に入った場所から、さらに下流を探索してから、対岸の上流部分に行ってみることにした。
 20分後、沢に入った場所に戻った。そして、さらに下流に下った。しかし、すぐに大きな段々になった滝に足止めをくらい、先に進むことができなかった。しかも、工事の関係で水が濁り、条件的には良くないと判断した。そこで、すぐに対岸の上流へ登る道に入った。しばらく進むと、センダングサの群落があり、カラスアゲハ、クロセセリ、タイワンビロウドセセリ、クラルシジミなどを撮影することができた。そして、ポイントの対岸に出た。

 予想通り、沢をさらに上流に登ることができた。すると、広がっていた沢が、急峻な崖によって徐々に狭くなっている場所に出た。フトオアゲハが蝶道を作るならば、ここを通過すると考えた。そして、足元には、吸水できる場所が数か所あり、最高のポイントと感じた。時計を見ると9時になっていた。

 背負っていた荷物を置いて、上流を見上げた。すると、上流、30mほど先に黒い小さな点が見えた! ひょっとして! 小さな点は、だんだんと大きくなってきた。そして、後翅に白い斑紋と赤い尾状突起が見えた!! フトオアゲハだ!!! 
 すごいスピードで迫ってくる! 止まる様子は全くない! 崖の岩の前を飛び行く姿を連写した。手応えはあった! さらに目でその姿を追ったが、あっという間に下流へ消えていった。直ぐに後を追った。しばらく渓谷を探索したが、どこにもいなかった。一瞬の出来事であった。飛び方は、カラスアゲハに似ていた。大きさは、カラスアゲハより少し大きい位であった。
 そこでカメラを確認した。何とか、フトオアゲハの姿が映っていた! 安堵が緊張を解きほぐし、ガッツポーズが出た!!
 さらに、次の瞬間を待つべく、先程のポイントに戻り、4時間近く、その一帯を探索したが、再び見ることはできなかった。午後2時、下山し、今日の撮影を終えた。
 明日は、天候が悪い予報である。それならば鳩之澤に行っても仕方がないので、曇っているようであれば、蘭東の南部の新城溪に行ってみようと思う。

● 5月18日  太平山 : 晴れ 後 曇り
 朝起きると、天気予報は、曇り時々雨であったが、晴れていた。そこで、太平山の鳩之澤に出かけることにした。
 8:45、快晴の鳩之澤に降りた。一体,天気予報は、どうなっているのか? すぐに、昨日、フトオアゲハを見つけた沢の奥へ向かった。風もなく、最高の日和である。途中にある数ヶ所のポイントを見ながら向かったのであるが、残念ながらいなかった。そして、ついに目的の奥地へ着いた。しかし、その姿を見ることはできなかった。しばらく待ったが、現れないので、再度、下流のポイントを見に行こうと、岩場を下って道路に出たとき、右の斜面の林の上を飛んで降りてくる黒いアゲハがいた。30mほどの距離になったとき、白点と赤斑が見えた! フトオアゲハだ! カメラを構え、狙って連写した。そして、あっという間に通過し、下流へと飛んで行った。急いでカメラを確認すると、昨日よりも鮮明に映っていた! やった!! その後、下流一帯を探索したが、見つけることはできなかった。
 その後は、5時間かけて、渓谷を探索したが、全く見られなかった。今日は、香港からの撮影者が4人、台湾の人が3人、やはりフトオアゲハを撮影に来ていたが、誰も見つけていなかった。「どうでしたか?」と何人かに聞かれたので、撮影したフトオアゲハの写真を見せると、皆、驚きの顔をして称賛してくれ、嬉しいような、恥ずかしいような気持ちであった。
 午後1時、奥地のポイントを出て直ぐに、対岸の100mほどの高さがある岩場の崖(上流に向かって右側の崖)が最上部から崩れ、大きな轟音とともに薄黄色の砂ぼこりが渓谷を包んだ。こちら側にも小石が飛んでくる状況である。急いで下流に向かって走った。恐ろしい光景であった。身体がゾクゾクした。それは、その現場は、昨日と一昨日、2日間に渡って、私がフトオアゲハを狙って探査していた場所であるからである。崖下20mの範囲にいたら即死であった。本当に幸運である。今後は、対岸には絶対に行かないことにする。
 ホテルへ帰ってから時間があったので、持参したパソコンを使って、ネットで、フトオアゲハが撮影された写真から、そのポイントの状況を調べてみることにした。2年前に撮影された写真では、鳩之澤にひかれている鉄板が腐食し、水がゆっくりと流れている場所で吸水していることが分かった。さらに30年前の写真では、鳩之澤の細かい砂地で吸水しているものであった。写真を撮影した角度からして、落差のある場所から望遠レンズで撮影してあった。また、撮影時間は、午前8時30分前後と9時前後で、この時間帯に吸水に現れるものと思われる。昨日、一昨日もフトオアゲハが現れたのは、9時30分までで、条件的には、8時から10時までがチャンスと思われる。烏来の福山村でアサクラアゲハが午前10時30分頃になると姿を消すのと似ている。そこで、明日は、天候が悪くなる予報であるので、悪かったら、南部の新城溪に行き、良ければ、早朝に鳩之澤に出かけることにした。吸水に来ているフトオアゲハを撮りたいものである。

● 5月19日  太平山 : 快晴 後 曇り
 5時30分、起きてみると快晴であった。そこで、タクシー乗り場を見に行くと、3台止まっていた。これならば早く鳩之澤に行けるので、ホテルで朝食をとるのをやめ、朝食と昼食をコンビニで買いこみ、6時10分、タクシーに乗った。そして鳩之澤には、7時20分には着いた。
 まず,温泉の排水溝周辺を探索した。ミカドアゲハやクロアゲハはいたものの,フトオアゲハはいなかった。そこで上流に向かった。沢のポイントへ降りるルートは、かなり複雑であったが、この3日間、歩き回ったおかげで、無事着くことができた。しかし…、何もいなかった。そこで、別のポイントも探してみたが、やはりいなかった。仕方なしに、奥地のポイントへ向かうことにした。そして、そこでも何もいなかった。時間は、7時40分であるので、これからが勝負である。じっくりと待つことにした。
 8時00分、奥地の空き地でフトオアゲハを待っていたとき、1台のバイクがやってきた。そして降りてきたのは、40歳位の台湾の人だった。そして、「フトオアゲハはいた?」と聞かれた。今日はいないけど、昨日と一昨日は、1頭ずつ、撮れました。」と言うと、「この沢のずっと奥地で、ここから2時間ほど歩いた場所に行けば、かなりたくさんのフトオアゲハがいるよ。」と「フトオ」だけは、日本語で話してくれた。ただし、危険な沢渡りを数回はしなくてはいけないこと、フトオアゲハを100回見つけて、止まっているのは1回くらいということも教えてくれた。これは、相当の覚悟をしなくてはならない。転倒してパスポートやカメラを濡らした大変なことになる。それどころか、流されて死を覚悟しなくてはいけない。そこで、奥地へ行ってみたいという気持ちはあったが、「わたしは行きません。」と伝えた。そして、ポイントなどを教えてくれたお礼を言って別れた。その後、その人が、渡れないと思っていた激流を膝まで水につかりながら渡り切る様子を眺めていた。
 しばらくは、地元の人が見えなくなった沢の上流を見つめていた。ここで死んでも本望かな…。「やっぱり、行こう!」 そう決心し、地元の人の後を追って上流に向かった。
 まず、最初の沢渡りは、水深は膝までであるが、流れがきつく、水に足を取られそうであった。川の幅は10mくらいである。上流に身体を向けながら、膝を少し曲げ、絶対に足を滑られないようにし、少しずつ足を踏みしめながら、一歩一歩確実に進んで行った。たった10mを進むのに、とても長い時間がかかった気がした。そして何とか、渡り切ることができた。本当に、死なないでよかったと思った。
 対岸は、げんこつ程の石がゴロゴロしている河原であった。黙々と歩いて、再び、必死の川渡り。川幅が広くて、川底が良さそうな場所を選んで、計5回の川渡りを終え、ようやく本流に小さな渓流が流れ込んでいるポイントに着いた。すると、大きなコンクリートの壁の上に、地元の人が立っている姿が見えた。安心して一息ついていると、その人が近寄ってきて、ここが、フトオアゲハの最高のポイントだと教えてくれた。そこで、私は、もう少し先が見たかったので、さらに上流へ登ってみたが、100m程歩くと大きなコンクリートの壁に阻まれた。その壁は、幅が50cmほどあって、足元から斜めにせり上がっていた。歩けそうだったので、綱渡りのように両手を左右に広げて登っていくと、だんだん高くなり、最後は、左右の眼下にある地面が10m程、真下にある状況になった。高いところは平気な私であるが、何も身体を支える物がない状況に気づくと少し不安になり、お腹の辺りがゾクゾクとした。そこでロボットのようにゆっくりと体を180度回転させ、膝を少し曲げて一歩一歩確かめながら下った。地面に着いたとき、本当に無茶をするなあと自分に飽きれた。時間は、すでに9時50分になっていた。そして先ほどのポイントまで戻り、大きな岩に腰を掛け、フトオアゲハを待った。
 岩に座って間もなく、地元の人が、「フトオ!」と叫んだ。上流から、ついにフトオアゲハがやってきた。しかし、止まらない。夢中で連写した。手応えはあった。その後も、3頭のフトオアゲハが現れたが、対岸の遠く離れた場所を通過するだけであった。ここは、蝶道になっているが通過するだけで、吸水ポイントはやはり下流のポイントであると感じた。
 でも、この地元の人は、一体,何のためにここに来たのだろうか? という疑問が沸いてきた。カメラを持っているわけでもないし、ただ、壁の上に立って上流からやってくるフトオアゲハを見ているのである。不思議だ…。フトオアゲハの発生数の調査をしているのであろうか?
  
 10時40分、空が曇ってきた。これでは飛ばないとその地元の人も言ったので、先に下山することにした。お礼を言って別れた。ふと気が付くと、地元の人の足元に赤いシャツが広げられていた。
 帰りも必死の川渡りであった。そして、最後の沢渡りをしようとして、上流を見たとき、チラッと地元の人が赤いネットを持って沢を降りてきているのが見えた。密猟者だったのである。そして、次に地元の人が見えたときには、ネットはリュックにしまわれていた。数分後、地元の人は私を追い抜いて、下流へ下って行った。
 何とも言いようのない、やるせない気持ちのまま、12時30分には、下流のポイントに着いた。どうして、地元の人は最初に私に声をかけたのか? 私が着いていったら、密猟はできないはずである…。場所を教えても、着いて来られないと思ったのだろうか? どうも納得がいかなかった…。
 その後、下流のポイントを見回ったが、何もいなかった。午後2時、帰路に着いた。
 今後は、吸水しているフトオアゲハを撮りたいし、そのためにも、普通に歩いて行ける吸水ポイントで粘るしかないことを実感した。
 ホテルへ戻って、フトオアゲハの写真を見ると、8秒間、連続して写真が撮れていた。「そうだ! これを動画(GIFアニメ)にしよう!」 早速やってみると、面白いフトオアゲハの飛翔の様子の動画になった。

 翔いた後、滑空する様子がよく分かる。命がけで計10回の沢渡りをした甲斐があった。しかし、2度と最奥地へは行かないと誓った。
 羅東の週間天気予報が、ずっと晴れに変わった。ありがたいことである。明日は、羅東の南部の新城渓を探索する予定である。

● 5月20日  羅東 : 曇り
 天候は曇り。予定通り新城渓へ行くことにした。羅東を8時3分の各駅停車の列車で、3つ目の駅である蘇澳新站へ行った。切符代は、15元である。そこからは、西の山に向かって歩いた。大きなコンクリート工場があり、それを抜けると大きな公園らしき場所に出た。そこは、射撃場があり、ライフルの銃声が響き渡っていた。駅から30分ほど歩いた地点で、山に登る道があった。そこで、そこを登ってみることにした。
 山道はかなりの勾配であったが、ジグザグに歩いて進んだ。たくさんのマダラチョウ類がフジバカマに似た植物に吸蜜に来ていた。さらに進むと、ヒメウラボシシジミが現れ、オオルリモンアゲハ、タイワンフタオツバメを撮影することができた。山道に入ってから2時間ほどで、峠に着くことができた。その周辺を探索するとトガリチャバネセセリを見つけることができた。午後12時30分になったので、そこで昼食を取り、下山することにした。麓まで着いたとき、センダングサの群落の中に、オナシアゲハがいるのを見つけた。台湾で2頭目である。十数枚の写真を撮影することができた。その後、午後3時には、羅東駅に着くことができた。そして、羅東に来たときみたいに、帰りの切符が手に入らないと困るので、台北までの切符を買っておくことにした。
 明日は、天候予報が悪く、明後日以降は晴天が続く予報である。データも溜まっているので、休みにしようと思う。

● 5月21日  羅東 : 雨
 久しぶりの雨になった。データの整理をして一日を終えた。
 明日は曇りになりそうで、羅東の南西部にある寒渓へ行こうと思う。

● 5月22日  羅東 : 曇り
 予報通りの曇りなので、寒渓へ行くことにした。7時50分、タクシー乗り場に行くと、十数台止まっていた。すると、いつもの運転手が声をかけて来た。今日は、寒渓へ片道で行くと伝えると、15分くらいで行けると教えてくれた。メーターで走って330元であった。寒渓のバス停で降ろしてもらい、帰りのバスの時間を見ようとしたら、時刻表が壊れていて、何も見えなかった。すると、近くにいた人が、午後1時に羅東駅行きのバスがあることを教えてくれた。
 渓谷の奥へは、100m程の吊り橋を渡って行く。

 数組の観光客が吊り橋を渡りに来ていた。かなり揺れるのでゆっくり歩いて向こう岸に渡った。すると、橋の袂に。尾状突起の辺りに斑紋がある小さなシジミがいた。これは! 望遠レンズで覗くと、クヤニヤシジミであった。これまでに1枚しか撮れていなかった。幸運である。さらに渓谷沿いに続く道を進むと、センダングサが一面に広がり、ウスコモンマダラが無数に集まっていた。しばらく進むと、分かれ道になり、その一帯では、キモンチャバネセセリが数頭、飛来していた。さらに道は、渓谷沿いに進んだが、普通種が多く、タイワンホシミスジ、タイワンイチモンジ、カラスアゲハがいたくらいであった。
 11時00分、来た道を戻り、午後1時のバスに乗って羅東に着いた。
 明日は、朝、晴れておれば鳩之澤に行き、曇っておれば、羅東の西北部の粗坑溪に行こうと思う。

● 5月23日  太平山 : 晴れ 後 曇り
 朝、5時半に起きると、空は晴れていた。そこで、太平山の鳩之澤に行くことにした。6時00分にタクシーに乗り、途中、朝飯を買い込み、7時10分には、鳩之澤に着くことができた。早速、フトオアゲハのポイントに行ったが、姿はなかった。その後、鳩之澤の駐車場の下にある温泉の排水溝付近も探索したが、何もいない。仕方がないので、2頭、撮影した奥地のポイントで待つことにした。
 9時頃、その奥地のポイントに、2人の若い青年がやってきた。「フトオアゲハはいましたか。」と聞かれた。「今日は何もいない。」と答えると、2人は、沢の奥地へと進んで行った。リュックを背負っているが、膨らんでおらず、カメラは持っていない。そこでよく見ると、何と、ネットの柄を持っているではないか! 密猟者なのである! 2人は、沢を渡り、上流へ消えていった。

 今日は、月曜日であるので、人が少ない日を狙ったのであろうか。鳩之澤温泉は、フトオアゲハを観光の目玉にして、フトオアゲハのモニュメントを数か所に立てているのに、その保護活動を何もしないことに対して、失望感を抱かざるを得なかった。
 その後、フトオアゲハを見ることはできなかったが、ホシチャバネセセリが2頭、トラップに飛来し、たくさんの写真を撮ることができた。 
 12時になったころ、雨が降り出したので帰路に着いた。
 明日は、羅東の西北部の粗坑溪に行こうと思う。

● 5月24日  粗坑溪 : 曇り 後 雨
 天気予報は終日曇りであったので、予定通り、粗坑溪に行くことにした。場所は、宜蘭の北西の山にある渓谷である。羅東からタクシーを使い,50分間で着くことができた。かなり深い山で、標高もだいぶ上がってきた。
 いくつかの隧道がある場所の近くでタクシーを降り、探索に出かけた。タクシーは、そこで待っているということなので、帰りの時間は午後1時と言ってあったが、自由になるので安心であった。
 まず、粗坑溪への入口に着いた。グーグルマップでは、ここから数キロ先まで道が続いていたが、渓谷が広がったのか、道は全くなく、沢登りをしなくてはいけない状況であった。仕方なく、道路をさらに上流に登っていくことにした。そして、次の谷まで行ったが、渓谷に沿って上がる道はなかった。これ以上登っても同じ状況であるので、道を下り、タクシーが待っている場所の西の谷に入ることにした。
 道は、舗装されておらず、谷沿いに道があるので植物相も豊富で、天候が晴れていれば色々なチョウが現れてくるはずである。しかし、今日はきびしい状況であった。しばらく進むと、センダングサの群落があり、クヤニヤシジミを見つけることができた。しかし、それ以外は、大したものはいなかった。すると、雨が降り出し、正午であったが、残念ながら帰路に着くことにした。 
 明日は、鳩之澤へ行く道の途中にある清水大橋の近くの清水溪に行こうと思う。

● 5月25日  清水溪 : 曇り 後 雨
 朝、起きてみると曇りであった。天気予報も曇りであったので、清水大橋の袂から入る清水溪に行くことにした。タクシーで45分間、片道450元であった。グーグルマップでは、帰りのバスは、午後12時35分が1本、あるらしいのだが、実際は、バス停がなくなっており、帰りのバスはないかもしれない状態であった。往復、タクシーを使うべきだったと感じた。
 清水溪に入ってみると、自然が残っており、渓谷沿いに道があり、さらに山へ登る道もある。いろいろなチョウが顔を出した。スミナガシ、アオバセセリもいたが、止まらず、撮影はできなかった。晴れておれば、珍蝶もいそうであった。ところが、渓谷に入って30分ほどで雨が降り出し、それでも先へ進んだが、しばらくすると強い雨が降り出し、下山するしかなくなってしまった。
 そして、清水大橋の袂まで戻り、そこにある1軒しかない店に入った。人がいたので、タクシーを呼んでほしいと頼み、快く呼んでくれた。タクシーが来るまでの40分間、その人といろいろなことを話し、楽しく時間を過ごすことができた。帰りのタクシー代は、500元であった。
 明日は、少しは天気が良さそうなので、新城渓か清水溪に行こうと思う。

● 5月26日  鳩之澤 : 晴れ時々曇り 清水溪 : 曇り時々晴れ
 5時半に起きて空を見ると、何と晴れていた。そこで、今日は、10時までは鳩之澤に行き、その後、清水溪に行くことにした。
 タクシー乗り場で交渉すると、3000元でOKとなった。早速、鳩之澤に出かけた。
 検問所でこれまで見せてきた保険代の領収書を出すと、どういう訳か、150元の支払いを要求された。検問所の人が違うと、なぜか対応が違うので、全く、訳が分からない。仕方なしに支払いを済ませ、鳩之澤に着いた。
 温泉の流れ口のポイントや渓流沿いの鉄板のある場所、流れ込みのある場所など、全てのポイントを探索したが、全くフトオアゲハは見られなかった。奥地のポイントも同じであった。仕方なしに、これらのポイントを数回、往復した。途中、カメラを持った撮影者2人に会ったが、やはり、フトオアゲハは見ることもできなかったと教えてくれた。

 9時半になったので、奥地のポイントに戻ってみると、トラップにアオバセセリが飛来していた。きれいな写真を撮影することができた。そして、次の清水溪に移動することにした。
 清水溪に着くと、売店の裏にある湿地に、たくさんのオオルリモンアゲハが吸水に来ていた。数多くの写真を撮ることができた。さらに、渓谷の奥へ進むと、クロマダラソテツシジミ、タイワンホシミスジを撮影することができた。さらに奥へ進むと、人家があり、その裏山に入ることができた。しかし、大したものはいなかった。そこで下山することにした。途中、ホシチャバネセセリがいたが、素早くて撮影することができなかった。ワモンチヨウも現れ、対岸にいたものを何とか撮影することができた。そして、昨日、スミナガシがいた売店の裏にある湿地に戻ったが、見つけることはできなかった。仕方なく、道を下り、隣の谷に入ったが、やはり、普通種しかいなった。そして、再度、売店の裏にある湿地に戻ったが、やはり、スミナガシはいなかった。これで、今回の撮影旅行は終了とし、羅東へ戻った。

● 5月27日  羅東 : 快晴
 久しぶりの快晴である。止まっているフトオアゲハを撮りたかったという未練を残して,日本に向かった。サミットがあったので,空港の駅は,警察官がたくさんいたが,スムーズに通過し,帰宅することができた。

● エピローグ
 13日間の撮影の前半は、天候が良く、さらに、奇跡的にフトオアゲハを6頭、確認でき、60枚を超える写真を撮影出来たことは、本当に運が良かったと思う。延べ20人近くの撮影者と会ったが、誰も、フトオアゲハを見ていなかったからである。後半の6日間は、天候が不順で、梅雨らしいジメジメした日が続いたが、それなりに撮影をすることができた。新記録種のホシチャバネセセリ、タイワンフタオツバメを撮影出来たことは、ありがたかった。
 しかも鳩之澤以外に予定していた渓谷をすべて撮影して回ることができ、いろいろな情報を入手できたこともよかったと思う。
 次回の6月の撮影旅行は、オオムラサキを初め、高山蝶やゼフィルスを撮影したいと思う。
 




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