台湾の蝶 <アゲハチョウ科>


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・キシタアゲハ 黄裳鳳蝶 (台湾産)   Troides aeacus kaguya (Nakahara et Esaki, 1930)    台湾亜種


写真数: 96枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点

★・・・1972年に記録あり
【特  徴】
 台湾亜種名は,動物命名規約に従えば,kaguya が正しく,formosanus の適用は,規約を正しく認識していないためである(宇野彰,日本鱗翅学会誌YADORIGA aD239)に従い,ここでは,kaguya とする。
 大型のアゲハチョウである。ジャングルの上空を高く飛ぶが,ランタナの花の蜜を吸いに降りてくるときは,撮影は非常に簡単である。♀は,体の重量が重いために,驚いたときは,うまく飛べないで,花から落下してしまう個体もおり,飛び方はうまくない。現在では,台湾全土で採集は禁止され,保護されている。
【雌  雄】 ♂は後翅の黄色斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
【生息地】  台湾の低・中標高(〜1000m)の常緑広葉樹林,海岸林,熱帯雨林で見られる。
 特に台湾南部では,個体数が多い。かつては,南部の墾丁国家公園のジャングルには少なくなかったが,現在では,ジャングルに入る道が封鎖され,入ることができないため,ほとんど見ることができなくなった。隣接する社頂自然公園では,かなりの数の個体を確認することができた。南東部の台東市の知本渓でも数頭を確認することができた。1972年には,中部山岳の南山溪本部溪でも,♂を各1頭,確認することができたが珍しい記録である。2019年7月には,台湾東部の花蓮縣新城郷でも確認できた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド北部,ヒマラヤ,インドシナ半島,中国の南西部・南部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,陳西省,江西省,浙江省,福建省,広東省,広西省,貴州省,雲南省,西蔵區に分布し,名義タイプ亜種 T.aeacus aeacus が分布している。
【近似種】 コウトウキシタアゲハに似ているが,本種は台湾本土に分布し,コウトウキシタアゲハは,台湾南東部の離島・蘭嶼のみに生息するので区別することができる。

・コウトウキシタアゲハ 珠光裳鳳蝶 (台湾産)   Troides magellanus magellanus (C.& R.Felder, 1862)   名義タイプ亜種


写真数: 46枚

♂ ♀
出現頻度
☆☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 蘭嶼産を蘭嶼亜種sonani として扱うには,松村博士が命名した蘭嶼亜種sonani は,記載文がないため無効名となる。蘭嶼産を別亜種にする場合,新規に命名する必要があり,蘭嶼産は,名義タイプ亜種に含める見解が一般的と言える(宇野彰,日本鱗翅学会誌YADORIGA aD239)に従い,ここでは,名義タイプ亜種とした。
 大型のアゲハチョウである。♂は占有行動をする。しかし,それは午前中のみで,午後からは,広範囲を飛び回り,占有行動はしない。ハイビスカスに訪花していた。現在では,採集は禁止され,保護されている。
【雌  雄】 ♂は後翅の黄色斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
 墾丁のキシタアゲハが,3月上旬が発生の最盛期であったことを参考にして,蘭嶼に出かけてみたところ,やはり,3月上旬が最盛期であった。翅の状態からすると,2月下旬から発生していたと思われる。
【生息地】
 台湾では,蘭嶼のみで発生し,低標高(〜400m)の常緑広葉樹林,海岸林,熱帯雨林で見られる。
 南西部にはかなりの数の個体が見られた。1970年代は,蘭嶼の各所で多数の個体が発生していたが,島全体が畑や果樹園に開発され,その数は激減した。
【分  布】  種としては,台湾以外では,フィリピンに分布し,台湾産は分布の北限に当たる。
 中国には分布していない。
【近似種】 キシタアゲハに似ているが,本種は,後翅の黄色斑が外縁部まで発達し,前翅の白線が鮮明になること,後翅の黄色斑は,尾端側の水平方向から見ると,黄緑色に輝く特徴があるので区別することができる。

・アケボノアゲハ 曙鳳蝶 (台湾産)   Atrophaneura horishana (Matsumura,1910)   台湾特産種


写真数: 77枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 大型のアゲハチョウである。やや暗い空間を好み,樹林の間を縫うようにして飛ぶ習性がある。♂は縄張り争いをする習性がある。優位な♂は,何本かの木を縄張りとし,そこをパトロールしながら飛翔し,花に止まっている他の♂を見つけると,追尾して追い払う。花に止まっている時間は,オオベニモンアゲハでは,十数秒と長いが,本種は,3秒程度で,非常に短く,常に前翅を動かしながら移動して吸蜜する習性がある。現在では,採集は禁止され,保護されている。
【雌  雄】 ♀は翅表が黄褐色になるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  4月下旬〜12月にかけて年1回〜2回発生する。
 梨山では,7月上旬が♂の発生期の始まりで,♀が出るのは7月中旬になりそうである。7月4日は,1頭しかいなかったが,6日は,9頭を確認することができた。ピークは,7月中旬であろう。南投縣翠峰では,8月中旬〜9月上旬にかけては,多数(100頭以上)の個体が発生し,各所で見ることができた。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(300m〜3000m)で,低地帯では春と秋に発生し,高地帯では,夏から秋にかけて発生し,常緑広葉樹林で見られる。
 発生域は広いが,発生地は局部的である。台湾の中部山岳の梨山南投縣翠峰南投縣梅峰南投縣松崗ナールー湾南投縣青青草原で見ることができた。南投県仁愛郷屯原でも撮影された。
【分  布】 台湾以外には分布せず,台湾の特産種である。
【近似種】 なし

・ジャコウアゲハ 麝鳳蝶 (台湾産)   Atrophaneura alcinous mansonensis (Fruhstorfer, 1901)


写真数: 49枚


出現頻度
☆☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 属名は,以前はByasa で,多くの種が属下にあったが,オオベニモンアゲハを除く多くの種は,Atrophaneura に変更された。
 日本産は別亜種で,alcinous(日本本土・大陸亜種),yakushimana(屋久島亜種),loochooana(奄美・沖縄亜種),miyakoensis(宮古島亜種),bradana(八重山亜種)に分かれている。台湾に生息する亜種mansonensis は,北ベトナム,中国南部・東部にも分布している。
 大型のアゲハチョウである。日本産と同じように,ゆっくっりと飛ぶ習性がある。日本では,各地で見られるが,台湾では珍蝶である。
【雌  雄】 ♀は翅形が丸みを帯び,前翅の色が明灰色になるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年にわたって,年数回発生している。
【生息地】  台湾の東部を除く各地で記録され,低・中標高(〜1000m)の常緑広葉樹林,竹林周辺で見られる。
 苗栗縣三義で見られた。発生地が極めて局所的で,三義ではシシウドの花が咲いている場所が数十か所あったが,本種が見られたのは,1ヶ所のみであった。
【分  布】  種としては,台湾以外では,中国の南西部・南部,朝鮮半島,日本の青森県以南に分布する。
 中国では,西蔵區,四川省,広西區,安徽省,甘粛省,陳西省,河南省,山西省,湖北省,浙江省,福建省に分布している。浙江省,福建省に分布しているものは,台湾と同じ亜種で,それ以外は,別亜種 A. alcinous confusus である。
 最近の論文では,中国産の confusus を種に昇格し,台湾産の mansonensis confusus の亜種とする説もある。
【近似種】  タイワンジャコウアゲハに似ているが,本種は,表面の薄赤色班があまり発達せず,♂ではくの字型,♀では太めのくの字型になり,雌では表面に褐色斑が広がることで区別することができる。
 

・タイワンジャコウアゲハ 長尾麝鳳蝶 (台湾産)   Atrophaneura impediens febanus Fruhstorfer, 1908   台湾亜種


写真数: 37枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 属名は,Atrophaneura としたが,Byasa とする論文もある。
 大型のアゲハチョウである。ランタナの花畑や公園に栽培されている木の花,山野に咲くミズキの花に飛来していた。ゆっくっりと飛ぶ習性がある。
【雌  雄】 ♀は,前翅外縁の翅形が丸みを帯び,後翅亜外縁の桃色斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(〜2500m)の常緑広葉樹林,熱帯雨林,竹林周辺で見られる。
 南投縣南山渓社頂自然公園苗栗縣三義台東縣達仁區,桃園市上巴陵台北市剣南蝶園で見ることができた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,中国の南東部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,江西省,浙江省,福建省に,名義タイプ亜種 B.impediens impediens が分布している。
【近似種】  ジャコウアゲハに似ているが,本種は,後翅裏面の薄赤色班が大きいことで区別することができる。
 

・ベニモンアゲハ 紅珠鳳蝶 (台湾産)   Pachliopta aristolochiae interposita (Fruhstorfer, 1904)


写真数: 42枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】  日本産と同じ亜種である。大型のアゲハチョウである。直線的に飛ぶ習性があり,飛翔力は弱い。
 最新の研究では,以前はAtrophaneura ジャコウアゲハ属に分類されていたが,現在では,Pachliopta ベニモンアゲハ属に分類された。
【雌  雄】 ♀は翅形が丸みを帯び,後翅裏面の赤色斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
【生息地】  台湾の低・中標高(〜1000m)の常緑広葉樹林,熱帯雨林,海岸林,竹林周辺で見られる。
 台湾の南部の墾丁国家公園では,あまり多くなく,隣接する社頂自然公園でも少なかった。台東市の沖にある離島・蘭嶼高雄市直瀬溪苗栗縣三義台北市剣南山で撮影することができた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド,インドシナ半島(マレーシアタイ),フィリピン,ボルネオ島,インドネシア,中国の南西部・南部,日本の南西諸島に分布し,台湾産,日本産は分布の東限に当たる。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,香港,海南省,福建省,上海市に分布している。香港に分布しているものは,別亜種 P.aristolochiae goniopeltis で,それ以外は,別亜種 P.aristolochiae adaeus である。
【近似種】  シロオビアゲハの♀に似ているが,本種の後翅裏面の赤色斑は丸みを帯びることで区別することができる。

・オオベニモンアゲハ 多姿麝鳳蝶 (台湾産)   Byasa polyeuctes termessus (Fruhstorfer,1908)   台湾亜種


写真数: 63枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 大型のアゲハチョウである。ゆっくりと飛び,各種の花を訪れる。
 属名は,Byasa で,多くの近似種が属下にあったが,オオベニモンアゲハを除く多くの種は,Atrophaneura に変更された。
【雌  雄】 ♀は翅形が丸みを帯び,前翅表面の色が暗灰色になり,後翅表面の第2・3中脈の間にある斑紋が白くなり,交尾器の先端が筒状になるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
 梨山では,7月上旬では,かなり痛んでいたので,6月下旬が発生の最盛期に当たるようである。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(〜3000m)の常緑広葉樹林,熱帯雨林,海岸林,竹林周辺で見られる。
 特に台湾南部では,個体数が多い。以前は,台湾の墾丁国家公園では,3月から4月にかけて,食草のウマノスズクサ類がある限られた場所に発生し,そこでは少なくなかったが,この2年間は,激減していた。隣接する社頂自然公園(標高275m)では,多産していた。中部山岳の松崗(標高2024m),梨山晉元橋拉拉山上巴陵南投縣梅峰南投縣翠峰でも発生していた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド北部,ヒマラヤ,インドシナ半島,中国の南西部・南部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,福建省に分布している。西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省に分布しているものは,名義タイプ亜種 B.polyeuctes polyeuctes で,四川省に分布しているものは,別亜種 B.polyeuctes lama である。
【近似種】 なし

・アサクラアゲハ 劍鳳蝶 (台湾産)    Pazala eurous asakurae (Matsumura, 1908)   台湾亜種


写真数: 53枚


出現頻度
☆☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 中型のアゲハチョウである。直線的に飛ぶ習性があり,遠くから見ると,大型のシロチョウ類のように見える。
【雌  雄】 ♂は後翅表面基部に性標があるので黒帯がV字型になり,♀は1本だけの黒帯となるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  2月中旬〜7月にかけて,年1回発生する。
 2017年7月21日に,南投縣南梅峰の道路沿いのミズキの花に飛来している1♂を撮影することができた。その場所の標高は,2107mで,高山であるため,発生が遅れた♂が生き残っていたのだと思われる。個体は,かなり痛んでいたが,元気に飛び回り,10分ほど,吸蜜行動をし,その後,森林の奥へ消えていった。 2018年6月25日にも,花蓮市碧緑神木(標高2150m)で1♀,26日にも1♂を撮影でき,標高の高い場所では,発生が遅れることが確認できた。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(200m〜2800m)の常緑広葉樹林がある川沿いで見られる。
 春に現れる蝶で,1970年代は,台湾の中部山岳にある南山渓では,かなりの数の個体が見られたが,2013年〜2016年の3月にかけての調査では,1頭を確認できただけであった。特に,2016年の3月は,台湾は天候が毎日悪かったのが原因している。南投縣南山渓新北市烏来区福山村南投縣梅峰で確認できた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド北部,ヒマラヤ,中国の南西部・南部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,江西省,浙江省,福建省に,名義タイプ亜種 P.eurous eurous が分布している。
【近似種】  モクセイアゲハに似ているが,本種は,後翅裏面の中央にある黒条2本が平行になること,後翅裏面の中央に橙色斑がないことで区別することができる。

・モクセイアゲハ K尾劍鳳蝶 (台湾産)   Pazala mullah chungianus (Murayama, 1961)    台湾亜種


写真数: 38枚


出現頻度
☆☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 中型のアゲハチョウである。直線的に飛ぶ習性があり,遠くから見ると,大型のシロチョウ類のように見える。ブルーシートの青色の物体に反応し,そこで吸水をしようとする行動が観察できた。生息範囲の渓流沿いを飛翔する行動が見られたが,個体を識別して飛翔行動を分析してみると,渓流沿いを往復しているというよりは,かなり広い範囲を周回しているような感じであった。
【雌  雄】 ♂は後翅表面基部に性標があるので黒帯がV字型になり,♀は1本だけの黒帯となるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  3月〜5月にかけて,年1回発生する。
 福山村で,2017年4月6日に見ることができたが,年によっては,3月下旬や4月中旬に見られることもあり,同じ場所でも発生期が異なるようである。
【生息地】  台湾の北部の低・中標高(200m〜1500m)の常緑広葉樹林がある川沿いで見られる。
 2017年3月28日〜4月6日までの10日間,天候に恵まれ,台湾北部一帯を調査できた。2015年は2回,2週間にわたって調査したが,本種は全く見られなかった。新北市烏来区福山村は,2016年に6回,2017年3月28日,4月3日,6日と計9回調査し,17回目の2017年4月6日のみ5♂♂を確認することができた。ちなみに,2017年の28日は快晴,2日は晴れ,6日は晴れ後曇りで,5頭は,曇りでやや蒸し暑い状態の時に飛来した。確認できた5頭は,無傷の個体3頭,翅表に傷のある個体1頭,尾状突起が片方欠けている個体が1頭で,個体の破損状態からして,同じポイントなのに,なぜ,3月28日,4月3日には見られなかったのか不思議である。
 推定であるが,3月28日,4月3日のような晴天では,モクセイアゲハは,標高の高い場所で活動し,4月6日の曇天のような日には,活動場所を低標高の場所まで広範囲に広げるため,3月28日,4月3日には,見られなかったのではないだろうか。
 4月6日は,モクセイアゲハだけで1416枚の撮影ができ,このホームページには資料として活用できる149枚を掲載した。この149枚は,撮影時間がで記録され,1分ごとの写真データが記載されている。そこで,これらの個体が胡蝶公園に戻ってくるまでの時間と飛翔速度を約5m/sとして計算すると,胡蝶公園がある大羅蘭溪と南勢溪の合流点まで飛んで行っていることが分かった。しかも,全ての個体が,南勢溪を上ることはせず,大羅蘭溪に戻ってきていることが分かった。南勢溪でも,本種は記録されており,分布の範囲に入るのであるが,同じ渓谷に戻ってきているのは,不思議である。なお,大羅蘭溪と南勢溪の合流点付近は,本種の撮影ポイントとして有名であり,今回の飛翔行動と合致し,納得できた。
 本種の発生地は,台湾の北部のみに限られているが,食草は,ニオイタブであることが分かっており,食草の分布は,台湾北部だけでないことからして,本種の分布が北部だけに限られるのは,何か,他の要因があるはずで,地史学的側面などからも考察する必要がある(宇野彰,日本鱗翅学会誌YADORIGA aD239)。
【分  布】  種としては,台湾以外では,チベット東部,ラオス,中国の南東部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 台湾の領土で,中国本土に隣接する馬祖列島の北竿島,南竿島では,2018年3月,中国大陸の名義タイプ亜種Graphium mullah mullah (Alpheraky 1897) が生息することが確認された。この亜種は,日本でも迷蝶として1頭が記録されている。
 中国では,江西省,浙江省,江蘇省,福建省に分布している。
【近似種】  アサクラアゲハに似ているが,本種は,後翅裏面の中央にある黒条2本の外側の黒条が途中で途切れること,後翅後角の橙色の斑紋が発達することで区別することができる。

・アオスジアゲハ 青鳳蝶 (台湾産)   Graphium sarpedon connectens (Fruhstorfer,1906)    台湾亜種


写真数: 89枚

♀  ハンキュウ型
出現頻度
★★★★★
分布域 と 記録地点
【特  徴】  中型のアゲハチョウである。平野部に広く分布するチョウである。春に見られる個体は,青色の帯がよく発達する。各種の花に集まる。飛び方は非常に速い。
 羽化直後の個体は,中央の青色帯が黄白色である。この黄白色の帯は,数時間が過ぎると通常の青色帯になる。羽化直後の黄白色の個体を標本にしても,中央の帯は黄白色のままで青色にはならない。

 本種は,斑紋異常の個体が稀ではあるが記録され,その形状によって型の名前が付けられており,その複合型も出現している。そこで下記に型をまとめてみた。

・ハンキュウ型
…前翅の翅頂付近の前縁側に,
さらに1つの青色斑が現れる個体

斑紋異常 ハンキュウ型
2013.4.28  愛知県 西尾市
撮影: 足立 幸子 氏

♀ 斑紋異常 ハンキュウ型
2015.6.30  台湾 南投縣 翠峰

♂ 斑紋異常 ハンキュウ型
2017.4.3  台湾 新北市烏来区

♂ 
斑紋異常 エサキ型 + ハンキュウ型
2017.4.3  台湾 新北市烏来区

♀ 斑紋異常 ハンキュウ型
2022.4.30  愛知県 岡崎市
撮影: 高村 葉子 氏
・タンノ型
…前翅の翅頂付近の外縁側に,
さらに1つの青色斑が現れる個体


※ 高知県の東部では,タンノ型が
 かなり高い確率で出現する。
 

♂ 斑紋異常 タンノ型
2018.7.16  愛知県 岡崎市

♂  ♂  吸水集団
2019.7.27  高知県 香美市
斑紋異常 タンノ型 (右端の3頭)
撮影: 高月 陽生 氏

♂ 斑紋異常 タンノ型
2015.7.14  台湾 新北市汐平路


斑紋異常 白化型 + タンノ型
台湾
※ 裏面も白化している

♂ 斑紋異常 タンノ型
2020.7.4  高知県 香美市
撮影: 高月 陽生 氏

♂ 斑紋異常 タンノ型
2020.8.1  高知県 香美市
撮影: 高月 陽生 氏

♂♂ 吸水集団
 斑紋異常 タンノ型
2020.8.9  高知県 香美市
撮影: 高月 陽生 氏

♂♂ 吸水集団
 斑紋異常 タンノ型
2020.8.9  高知県 香美市
撮影: 高月 陽生 氏

♂ 斑紋異常 タンノ型
2023.7.30  高知県 香美市
撮影: 高月 陽生 氏

♂ 斑紋異常 タンノ型
2024.4.28  愛知県 春日井市
撮影: 荒川 尚彦 氏
・エサキ型
…前翅に中室の前縁側に,さらに
1つの青色斑が現れる個体


斑紋異常 エサキ型 + ハンキュウ型
2017.4.3  台湾 新北市烏来区


斑紋異常 エサキ型 + サワノ型
2021.5.15  高知県 高知市
撮影: 高月 陽生 氏
・サワノ型
…前翅には,通常は青色斑が9つ
出現するが,最も翅頂に近い斑紋
が消失し8斑になったり,小さくな
っている個体

♀ 斑紋異常 サワノ型
2015.6.21  台湾 高雄市 茂林

♂ 斑紋異常 サワノ型
2017.3.29  台湾 新北市烏来区

♂ 斑紋異常 サワノ型
2017.4.3  台湾 新北市烏来区

♂   ♀
 斑紋異常 サワノ型
2019.7.15  台湾 台東縣

・ルヌラ型
…後翅の中央にある青色斑の前縁
部にある白斑の外縁側の曲線が直
線的になる個体
・ヒラヤマ型
…後翅の尾状突起が,異常に突出
した個体
・ナミダ紋型
…後翅中室の青色斑の外縁側に
涙型の小さな青色斑が現れる個体
・黄斑型
…後翅裏面の亜外縁,後角部付
近には,正常な個体は赤色斑が
出るが,それが黄色斑になる個体
・スズキ型
…後翅亜外縁の青色斑が消失し
たり,不鮮明になっている個体
・白化型
…後翅の地色が白化した個体

♂ 斑紋異常 白化型 + タンノ型
台湾
※ 裏面も白化している


・ホソオビ型
…夏型の個体は,前後翅の青色
斑が細くなるが,異常に細くなる
個体

♀ 斑紋異常 ホソオビ型
2019.7.15  台湾 台東縣 知本

♀ 斑紋異常 ホソオビ型
2019.7.17  台湾 花蓮市 碧緑

♀ 斑紋異常 ホソオビ型
2019.7.17  台湾 花蓮市 碧緑
・フトオビ型
…春型の個体は,前後翅の青色
斑が太くなるが,それが異常に太
くなる個体

♂ 斑紋異常 フトオビ型
2024.5.10  東京都 台東区
撮影: 小林 清二 氏
・ウスズミ型
…前後翅の青色斑に黒褐色点が
混じり,青色斑がぼやけた感じに
なる個体

♂ 斑紋異常 ウスズミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 ウスズミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 ウスズミ型
台湾
※ 裏面も黒化している
・スルスミ型
…前後翅の青色斑が地色の黒褐
色になり,青色斑がなくなった個体

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化している

♂ 斑紋異常 スルスミ型
台湾
※ 裏面も黒化しているる
【雌  雄】 標本では,♂は後翅内縁に白毛があることで区別できるが,生態写真では,尾部を横から見ることができ,交尾器の形状が分かれば,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年,幼虫成虫期が混在し,年数回発生している。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(〜2500m)の常緑広葉樹林,熱帯雨林,海岸林で見られる。
 各所で普通に見られた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド,ヒマラヤ,インドシナ半島,フィリピン,ボルネオ島,インドネシア,ニューギニア,オーストラリア北部,中国の南西部・南部,日本の本州以南に分布している。
 日本産は,別亜種 G. sarpedon nipponum である。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,福建省,上海市に分布している。広東省,海南省,福建省,浙江省,上海市に分布しているものは,別亜種 G.sarpedon semifasciatum で,それ以外は,名義タイプ亜種 G.sarpedon sarpedon である。
【近似種】 なし

・タイワンタイマイ 寛帶青鳳蝶 (台湾産)   Graphium cloanthus kuge (Fruhstorfer,1931)   台湾亜種


写真数: 53枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】 中型のアゲハチョウである。非常に速く飛び,なかなか止まらない。
【雌  雄】 標本では,♂は後翅内縁に白毛があることで区別できるが,生態写真では,尾部を横から見ることができ,交尾器の形状が分かれば,雌雄を区別することができる。
【生  態】 2月下旬〜11月上旬にかけて,年数回発生するが,少ない。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(〜2800m)の常緑広葉樹林で見られる。
 台東市の知本渓,中部山岳の南山渓本部渓拉拉山の下巴陵(標高656m),新北市烏来区福山村拉拉山上巴陵花蓮市碧緑慈恩で見られた。高雄市南横公路でも撮影された。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド北部,ヒマラヤ,中国の南西部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,江西省,福建省,浙江省に分布している。福建省,浙江省に分布しているものは,台湾と同じ亜種で,それ以外は,別亜種 G.cloanthus ciymenus である。
【近似種】 なし

・ミカドアゲハ 木蘭青鳳蝶 (台湾産)   Graphium doson postianus (Fruhstorfer,1908)   台湾亜種

♂ 青斑型
写真数: 68枚

♀ 黄斑型
出現頻度
★★★★★
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 日本産は,別亜種で,albidum(日本本土亜種),perillus(八重山亜種)に分かれている。
 中型のアゲハチョウである。非常に速く飛び,各種の花で吸蜜し,♂は,湿った地面で吸水することも良く見られる。
 翅表の斑紋には,青斑型と黄斑型があり,多くの個体は,青斑型であるが,稀に黄斑型が出現する。裏面の基部の斑紋は,赤斑となる。

青斑型

黄斑型
【雌  雄】 標本では,♂は後翅内縁に白毛があることで区別できるが,生態写真では,尾部を横から見ることができ,交尾器の形状が分かれば,雌雄を区別することができる。
【生  態】 3月〜12月にかけて,年数回発生する。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(〜2500m)の常緑広葉樹林,都市林で見られる。
 各所で普通に見られた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド,インドシナ半島(マレーシアタイ),フィリピン,ボルネオ島,インドネシア,中国の南西部・南部,日本の中部地方以西に分布している。
 中国では,西蔵區,陳西省,山西省,河南省,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,福建省に,別亜種 G.doson axion が分布している。
【近似種】 なし

・コモンタイマイ 翠斑青鳳蝶 (台湾産)   Graphium agamemnon agamemnon (Linnaeus,1758)    名義タイプ亜種


写真数: 48枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】 日本産と同じ亜種である。中型のアゲハチョウである。非常に速く飛び,なかなか止まらない。ミカドアゲハよりは,数が少なかった。
【雌  雄】 ♀は尾状突起が長くなるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 周年,年数回発生している。
【生息地】  台湾の低・中標高(〜1000m)の常緑広葉樹林,熱帯雨林,海岸林,都市林で見られる。
 台湾の南部の墾丁国家公園,中部山岳の南山渓社頂自然公園南投縣恵孫林場南投縣本部溪,台南市龍崎區で見られたが少ない蝶である。高雄市田寮區,屏東県霧台郷でも撮影された。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド,インドシナ半島(マレーシアシンガポール),フィリピン,ボルネオ島,インドネシア,ニューギニア,オーストラリア北部,中国の南西部・南部,日本の与那国島に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,福建省,上海市に分布し,台湾と同じ名義タイプ亜種である。
【近似種】 なし

・カバシタアゲハ 斑鳳蝶 (台湾産)   Chilasa agestor matsumurae (Fruhstorfer,1908)    台湾亜種


写真数: 72枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】 やや大型のアゲハチョウである。♂は渓流の近くの砂地で吸水したり,木々の上空で占有行動をする習性がある。花にもよく集まる。中部山岳の松崗では,ホッポアゲハと隣り合う場所に縄張りを作り,カバシタアゲハがホッポアゲハを追い回す光景を何度も見ることができた。
【雌  雄】 ♀は翅形が丸みを帯び,後翅の色が明褐色になるので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 2月下旬〜6月上旬にかけて,年1回発生する。
【生息地】  台湾の低・中・高標高(200m〜2800m)の常緑広葉樹林の周辺で見られる。
 台湾の中部にある南山溪台北市烏来区福山村本部溪松崗太平山鳩之澤新北市烏来区桶後林道新北市熊空陽明山大屯自然公園で確認できた。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インド北部,ヒマラヤ,インドシナ半島,中国の南西部・南部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
 中国では,雲南省,四川省,貴州省,広西區,湖南省,広東省,海南省,福建省に分布し,別亜種 C.agestor restricta である。
【近似種】  アサギマダラ,タイワンアサギマダラに似ているが,本種は,前翅表面の中室外側の3つの斑紋が大きく,桜の花びら状になるので区別することができる。

・キボシアゲハ 黄星斑鳳蝶 (台湾産)    Chilasa epycides melanoleucus (Ney,1911)    台湾亜種


写真数: 38枚


出現頻度
★★☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】 中型のアゲハチョウである。♂は,木の樹上を飛び回り,占有行動をする。樹上で,ホッポアゲハやカバシタアゲハを追う姿を時々見ることができた。
【雌  雄】 ♀は翅形が丸みを帯び,後翅の黒褐色斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】 2月中旬〜6月にかけて,年1回発生する。
【生息地】  台湾の低・中標高(〜2800m)の常緑広葉樹林で見られる。
 台湾の北部にある陽明山菁山路新北市烏来区福山村南投縣松崗新北市烏来区桶後林道陽明山大屯自然公園で見られた。南投縣南山溪でも撮影された。
【分  布】  種としては,台湾以外では,インドシナ半島の北西部,中国の南西部に分布し,台湾産は分布の東限に当たる。
中国では,四川省,雲南省,貴州省,湖南省,海南省,福建省,上海市に分布している。
【近似種】 なし

・フトオアゲハ 臺灣ェ尾鳳蝶 (台湾産)   Agehana maraho (Shiraki & Sonan,1934)    台湾特産種


写真数: 15枚


出現頻度
☆☆☆☆
分布域 と 記録地点
【特  徴】
 大型のアゲハチョウである。台湾の国蝶で,特別天然記念物に指定され,種指定で保護されており,採集は禁止されている。
 渓谷に沿ってとても速く飛び,温泉の排水溝付近や渓谷の砂地,鉄板の上などの水深の浅い場所などで吸水する様子がよく知られているが,2016年5月中旬は飛んでいる姿しか見られなかった。
 ♂は,硫黄の温泉水に集まる習性がある。♀は,各所の花に集まるが数が少ないので,♀が吸蜜している写真は,ほとんど撮影されたことがない。
【雌  雄】 ♀は,後翅の黒斑が発達するので,雌雄を区別することができる。
【生  態】  3月〜9月にかけて見られる。誤報がとても多く,本当に年2化しているかは疑問点が多い。
 本種の蛹には,休眠と非休眠の二型があり,前者は蛹期が17日であるのに対し,後者は,371日におよぶことが判明している(王ら,2007)。そのため,本種の明確な化生は確定できない(宇野彰,日本鱗翅学会誌YADORIGA aD239)。
 5月中旬に見ることができた。4月中旬にも撮影されている。
【生息地】  台湾南部,西部を除く各地で記録されている全土の低・中・高標高(500m〜2000m)の常緑広葉樹林で見られる。
 分布域が狭く,なかなか撮影出来ない種の一つである。台湾の各所で記録があるが,モンキアゲハ類やオオベニモンアゲハの誤報も多い。
 太平山の鳩之澤で撮影することができた。
【分  布】 台湾以外には分布せず,台湾の特産種である。
【近似種】 なし


アゲハチョウ科1は,ここをクリックすると見ることができます。(容量の関係で,別ページにしてあります)




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